チャカ・カーンは本名ではありません。「チャカ」はアフリカの言葉で「炎の戦士」ですし、カーンはチンギス・ハンのハンでもあるという勇壮な名前です。しかし、日本語的にはとても楽しそうに響くところが面白いです。

 この作品は、R&Bを代表する大歌手チャカ・カーンの初期の姿を垣間見ることができる一枚です。チャカ・カーンはもともとこのルーファスのボーカリストとしてスタートしました。1973年のデビューで、この作品が四枚目となります。

 前年にはグラミー賞で最優秀R&Bグループの栄冠に輝いており、乗りに乗っている時期の作品だと言えます。当時のメンバーはチャカを入れて5人。裏ジャケットにはど真ん中に大股開きで座っているチャカ・カーン、四隅に小さく残りのメンバーという扱いです。

 やがてチャカ・カーンは独立していくわけですけれども、ルーファスの他のメンバーはなかなかどうしてしたたかな人たちでした。要するに実力派だったわけですね。たとえば、ベースのボビー・ワトソンはクインシー・ジョーンズの引きでマイケル・ジャクソンの「オフ・ザ・ウォール」にも参加しています。

 この作品を聴いている限りでは、チャカ・カーンのワン・マン・バンドということでは決してありません。インストゥルメンタルの楽曲も入っていて、バンドの実力もチャカの歌唱と拮抗している印象です。

 この時期、ディスコ全盛期直前のライトなファンク・スタイルはとても魅力的です。ゆるいグルーヴがたまりません。縦揺れというよりも横揺れ型とでもいうのでしょうか。ミディアム・テンポでメローでありながら力強いというこの時期特有のサウンドです。

 どことなく洗練の度合いが足らない演奏なんですが、そこがたまりません。タワー・オブ・パワーのホーン・セクションも参加していて、ファンク度を増しているのですが、そこがキレキレにならないところがいいんです。

 チャカ・カーンのボーカルは裏ジャケの写真やジャケットの分厚い唇のイメージとは裏腹に暑苦しくはありません。このアルバムの一曲「スウィート・シング」はメアリー・J・ブライジがカヴァーしていますけれども、メアリーのクールなところに通じるものがあります。

 決してシャウトするだけではありません。林剛さんによるライナーの言葉を引用すると「ただ力任せに歌い叫ぶだけではなく、ジャジーに崩して歌えるところ」が素晴らしいです。まだまだチャカ・カーンが活躍するのはこれから先になりますが、すでに完成しています。

 ルーファスの70年代前半ファンクの気持ち良さに浸りながら、チャカ・カーンのボーカルを楽しむという贅沢が味わえる作品です。

 ちなみにこの作品はルーファス史上初のR&Bアルバム・チャート・トッパーとなり、長期間居座りました。大輪の花の咲始めという未来に向けた勢いを感じます。

Rufus featuring Chaka Khan / Rufus featuring Chaka Khan (1975 ABC)