ブラジル構成主義あるいはトロピカリズモと言われるアート・ムーブメントと共に語られるアーティスト、リジア・クラークの写真がジャケットに使われています。いつものシガー・ロスよりもより黒さを増したジャケットです。

 この作品は前作からわずか11か月で発表されました。前作がアンビエントな作風だったのに対し、この作品はドラムスが活躍するへヴィなサウンドですから、その対比がくっきりと際立っています。

 しかし、両者は同時進行で作られています。最初にこの「クヴェイカー」が作り始められ、それを中断して前作「ヴァルタリ」を仕上げて、それから「クヴェイカー」を仕上げるというサンドイッチ状態です。

 パンに当たる「クヴェイカー」は餡にあたる「ヴァルタリ」とは違うものでないといけないわけですから、「ガツンガツンと攻めてくるような感じのサウンド」になったということです。しかも制作中にキーボード奏者のキャータンが脱退して、3人組となっていますから、なおさら変化が際立つわけです。

 シガー・ロスはアイスランドのバンドですから、タイトルもアイスランド語、「クヴェイカー」は「芯」という意味です。爆弾の導火線という意味もあるそうです。意味が深そうですね。結成してからもう20年が経過し、バンドがまた元の三人組に戻って、基本に戻ったということかもしれません。

 私が知っているこれまでのシガー・ロスとは随分異なり、オーリーのドラムとゲオルグのベースが全体をぐいぐい引っ張ります。アグレッシブなバンド・サウンドになっていて、日照時間の短い北欧のアンビエントな風情はバックグラウンドに後退しています。

 それに、ヨンシーのボーカルは幾分ポップで甘い感じがします。最初に聴いた時には、ストーン・ローゼズなんかを思い出してしまいましたよ。ヨンシーは「ここ数枚のアルバムのサウンドはポップ寄りだった気がするんだ」と語っていますが、この作品の方がポップな気がするのは私だけでしょうか。

 しかし、それが悪いというわけでは全くありません。彼らのサウンドに対する感覚はやはり素晴らしい。音色がいいんですよね。ノイズっぽい音や音階のついたゴングの音などを積み上げて構築されるサウンドは素晴らしいです。さながら金属の彫刻のようです。

 各楽曲の輪郭はくっきりしていますし、それでいて全体を貫く空気は終始一貫しているので、一つの映画を見ているような気にもなります。ポップでロックなポスト・ロック・サウンドという矛盾したようなサウンドはカッコいいことこの上ないです。

 分かりやすいサウンドですから、ステージ映えしそうです。彼らはこのアルバムを引っ提げて武道館でも公演をしました。概ね好評だったようですね。行きたかったですが、今回は招待してもらえませんでした。

(引用はCDジャーナル2013年7月号)

Kveikur / Sigur Ros (2013 XL Recordings)