シーナ&ザ・ロケッツは不思議なバンドです。彼らはブレイクしたのが、アルファ・レコードに移籍してからだったこともあって、YMO周辺のバンドとして認知されていました。実際、出世作は細野晴臣さんのプロデュースでした。

 要するに日本のニュー・ウェイブ的な文脈でとらえられていたわけです。そして、リーダーの鮎川誠さんのカッコよさは何と言いますか前衛的なものでしたし、紅一点のシーナさんの姿かたちも一回りして新しい感覚でした。

 しかし、彼らはロックン・ロールです。パンクやニュー・ウェイブとロックン・ロールは親和性が高く、イギリスでもパブ・ロックが隆盛を極めていましたから、それ自体は不思議ではないんですが、シーナ&ザ・ロケッツのカッコよさは異質でした。パブ・ロック勢のいなたい感じとは相容れません。

 ではどんな音楽が似合うのかと言われると言葉に窮するんですけれども、とにかく何とはなく音楽と佇まいがちぐはぐなところが彼らの魅力の源泉だったような気がします。この作品のお洒落なジャケットとロックン・ロール全開の中身も少し違いますし、そもそもお二人の容姿と話す姿が似合わないわけです。面白い人たちです。

 この作品は、彼らの4枚目のアルバムで、プロデュースはロカビリー三人衆の一人ミッキー・カーチスさんです。彼のアイデアで名プロデューサー、フィル・スペクターとの仕事などで有名なサックス奏者スティーヴ・ダグラスさんが呼ばれ、さらにマネージャーの紹介でピアノの野島健太郎さんが参加しています。

 ギター・バンドでやって来たシーナ&ザ・ロケッツですから、「サックスやら入れると、なんか爺さん臭いバンドになりそうでね」と彼らも最初は嫌がっていましたが、「ブァーって吹いてさ。その出会いで夢中になった。っちゅうか、ファンになって。」と楽しそうです。

 このアルバムの表題曲は、私にとってシーナ&ザ・ロケッツの一曲は、と問われれば必ずこれだと答える名曲ですが、そのサックスとピアノが大活躍します。もちろん鮎川さんのロックン・ロール・ギターもかっこいいです。そして、作詞は当時大人気だったコピーライターの糸井重里さんですね。

 表題曲は若干異色であるとはいえ、全10曲、ばりばりのロックン・ロールが続きます。当時の彼らには勢いがあります。サウンド面などにいろいろとこだわりはあるようですが、あまりそんな素振りは感じさせません。そして、サックスやピアノもバンド・メンバーかというくらい一体感があるところもロックン・ロールです。

 カバー曲が一曲、何とローリング・ストーンズの「サティスファクション」です。鮎川さんがギターを弾きまくる曲で、アレンジに凝ったとかそういうことではなくて、ただただロックン・ロールに決めています。これが彼らを象徴するようです。

 私にとって、この作品は、発表時点での違和感をいまだに引きずる素敵なアルバムです。

Pinup Baby Blues / Sheena & the Rokkets (1981 Alpha)