ソチ・オリンピックが開幕しました。いきなり、羽生選手の演技は凄かったですね。屈託のない若さが素晴らしいです。というわけで、応援の意味を込めて「パリの散歩道」です。

 70年代、泣きのギターの三大傑作と言えば、サンタナの「哀愁のヨーロッパ」、ジェフ・ベックの「哀しみの恋人達」、そしてゲイリー・ムーアの「パリの散歩道」ではないでしょうか。いずれもタメを効かせたロング・トーンが素晴らしい大傑作です。

 ゲイリー・ムーアは、日本のメタル評論家の第一人者伊藤正則さんによって「人間国宝」に指定された超絶ギタリストです。ブルースをベースにしながらも、メタルでもロックでもフュージョンでも何でも弾ける凄い人ですから。

 この作品は、ムーアさんのソロとしては初の作品です。この少し前のムーアさんは、ジャズ・ロックをベースとしたコロシアムII、そして盟友フィル・ライノットのシン・リジーを掛け持ちするという、すでに若くして超絶なことをしていました。まだ20代後半です。

 さすがに兼務はいろいろとあったようで、このアルバム発表時にはコロシアムIIとは別れ、シン・リジーの正式メンバーになっていました。彼の人徳でしょうね、このソロ・アルバムには両方のバンドからメンバーが参加しています。喧嘩別れではないんですね。

 しかし、さすがにコロシアムIIとシン・リジーではスタイルがかなり違います。この作品では、コロシアムII組の参加曲が5曲、シン・リジー組の参加曲が3曲ですが、前者がフュージョン系、後者がハード・ロックと、結構くっきりとテイストが分かれています。

 ムーアさんはもちろん両方に対応しているわけで、基本、速弾きで気持ちよさそうに弾きまくっています。そして、彼は後にボーカリストとしても名声を確立していくわけですけれども、ここでもその片鱗が見えています。ギタリストの最初のソロ・アルバムとしては、理想的な作品かもしれません。

 話題の「パリの散歩道」は、このアルバムの最後を飾る美しい曲です。作者のクレジットは、ジャケットだと共演しているシン・リジーのフィル・ライノット一人になっていますが、ライナーではムーアさんとの共作となっています。

 この曲は、ムーアさんのライブの定番になり、よくインストゥルメンタルでプレイされますけれども、この初出時にはライノットさんのボーカルも入っています。歌詞は、1949年のパリの思い出を語るというものですが、この歌詞、生まれてから一度も会ったことがないライノットさんの父親にあてたメッセージになっているということです。父親の名前がパリス。切ないです。

 ゲイリーにとって、フィルは北アイルランド時代からの盟友ですし、フィルは若くして亡くなっているだけに、この曲への思いは強いことでしょう。日本では、かつてキムタク主演ドラマに使われて盛り上がりましたし、今回羽生選手が使用したことで、再び盛り上がることでしょう。

 泣きのギターばかりではなく、超絶フュージョンまで堪能できる好盤だと思います。

Back On The Street / Gary Moore (1978 Geffin)