♪蝶の笑いが聞える人は、雲がどんな味がするか、知っている♪。美しい歌詞ですね。ドイツのロマン派詩人ノヴァリスの名前を頂いたバンドだけに、この美しい歌詞が出来た時には、バンドとしての完成を感じたことでしょう。

 この歌詞を書いたのは、本作のみの参加となったメンバーのカルロ・カルゲです。彼は何と後年、ロックバルーンのネーナに参加します。件の名曲は彼のペンになるものです。彼は惜しくも亡くなってしまいましたが、葬儀では本作の歌詞が朗読されたということです。ロックバルーンではありませんでした。

 詩人ノヴァリスの小説「青い花」は本当に素晴らしいお話でした。学生時代に読んだ時に、胸の奥から込み上げてくる存在の儚さ美しさに酔った読後感が忘れられず、今でも時折読み返すことがあります。

 この作品の5曲目は、その「青い花」から詩を引用しています。この曲の邦題は「宇宙絵画」となっていますが、原題の直訳は「草原が緑に染まった」で、こちらの方がしっくりきます。同じノヴァリス・ファンとしては、十分な敬意を感じるだけにこの試みは良しとしたいと思います。

 ノヴァリスは71年にドイツのハンブルグで結成され、この作品が2作目となるバンドです。ファーストでは全編英語詞だったそうですけれども、ノヴァリスの名前を使うのならばそれはいかんですね。彼らもそれから反省し、ここではボーカルはドイツ語です。よほどぴったりです。

 ファーストの後、メンバーが変わって、この作品が制作される時点では、ツイン・ギターを含む5人編成となっています。ツイン・リードではありますが、オルガンを始めとするキーボードの活躍が目立ちます。全5曲中ボーカル曲は2曲で、インスト中心のバンドであることが分かります。

 彼らは自分たちの音楽のコンセプトを「ロマン派ロック」としています。それでロマン派のノヴァリスなんですけれども、音楽を解釈すると、一般にはプログレの範疇に入るコンセプトです。実際、シンフォニック系のプログレ・サウンドです。

 4曲目の「銀河賛歌」、直訳題で「印象」、ではブルックナーの「交響曲第5番」が引用されていて、見事にはまっています。クラシックのメロディーと全く違和感なくロックが同居するというプログレの真髄をみせてくれます。

 演奏力は確かで、大陸特有の大らかさに溢れています。これがイギリスだと、もっとリズムにエッジが効いてくるところなんですけれども、ユーロ・プログレではそうはならない。そこが日本的でもあります。また、同時期のクラウト・ロック勢とはかなり様相が違って、イタリア系に近い味わいです。

 今夜はこのアルバムを聴いて、「青い花」を思い出しながら、眠りにつきたいと思います。きっといい夢が見られると思います。

Novalis / Novalis (1975 Brain)