ソフト・セルで一世を風靡したマーク・アーモンドによるポスト・ソフト・セル第一弾です。名義はマーク・アンド・ザ・マンバスとなっていて、ユニットであることが強調されていますが、このユニットはあまりメンバーが固定しておらず、マークのソロと考えてもよさそうです。

 この作品でのマンバスは、ザ・ザで人気を博したマット・ジョンソンと女性キーボード奏者アン・ホーガンの二人が中心です。マークはボーカリストですから、サウンドをこの二人に委ねた風情で、二人は見事にそれに応えています。

 マーク・アーモンドはソフト・セルで大ヒットを飛ばしていますけれども、この当時つるんでいたのはリディア・ランチやジム・フィータス、ニック・ケイヴといったアヴァンギャルドなアーティスト達です。後にトーチ・シンガーとなるアーモンドさんの立ち位置がとても興味深いです。 

 この作品は一枚が45回転という変則的な二枚組で登場しました。全10曲で、そのうち4曲がカバーです。またこの選曲が渋い。60年代の人気歌手スコット・ウォーカーの「ビッグ・ルイーズ」、ルー・リードの「キャロラインのお話2」、ピンク・フロイドを辞めたシド・バレットの「テラピン」、そしてベルギーのシャンソン歌手ジャック・ブレルの「イフ・ユー・ゴー・アウェイ」です。

 マーク・アーモンドは後にジャック・ブレルの魂を次ぐ歌手となりますから、とりわけ感慨深いです。しかもこの曲はマークのキャリアにおいても重要な曲になります。ちなみにスコット・ウォーカーもジャック・ブレルをカバーしています。仲間ですね。

 冒頭におかれたタイトル曲「アンタイトルド」はソフト・セル的な美しいメロディーが印象的です。とりわけ後半に向けて畳みかけるように盛り上がるボーカルは素晴らしいです。ぺらぺらなリズム・マシンによるリズムを背景にマット・ジョンソンが実に彼らしいプレイを聴かせます。ベース・ラインが素敵だと言うことを再発見しました。私の大好きな曲です。

 しかし、この曲は若干特異です。続く二曲はいずれもマットが参加していますけれども、とりわけ「エンジェル」などはサイケなギターを中心とするザ・ザの曲にマークがボーカルをつけたようにも思えます。

 その後はアン・ホーガンのピアノをバックにマークが気持ちよく変態ボーカルを聴かせます。そして再び最後は全員参加のアヴァンギャルドな作品です。要するにソフト・セル的なポップな側面が際立っているのは最初の曲だけです。

 そんなことよりも、この作品はマーク・アーモンドがデカダンスな感性をフルに発揮して拵えたものだと言えます。リズム感がロックとは程遠い彼のボーカルが、メイン・ストリームなロックからは疎外されたミュージシャンとともに独特の世界を作りだしている。そんな感覚です。

 発表当時から愛聴していますけれども、いつ聴いても新しい発見がある不思議な一枚です。時代からは超然としている変なアルバムです。

Untitled / Marc and the Mambas (1982 Some Bizzare)