私は後にも先にもキッスのオリジナル・アルバムの中で購入したのはこの作品だけです。何もキッス・ファンに嫌がらせをしようとしているわけではありません。たまたまキッスを聴こうと思い立った時期の最新盤がこれだったんです。

 私とてベスト・アルバムは持っていましたし、キッスの音楽は嫌いではありませんでした。となんで言い訳をしているかといいますと、この作品は駄作も多いキッスの作品の中でも最も酷評されているアルバムの一つだからです。キッスらしくない。

 私も初めて聴いた時は驚きました。聴こうと思い立った時に思い浮かべていたキッスとはまるで違います。これはむしろプログレです。実際、ウィキペディア英語版ではジャンルのところにプログレと出ています。

 この作品は、オリジナル・メンバーだったドラムのピーター・クリスが脱退して、新たにエリック・カーを迎えた第一弾です。プロデューサーには「地獄の軍団」を手掛けたボブ・エズリンを起用していて、気合の入り具合が半端ない印象でした。

 しかし、ボブが発案したのはキッスには似合わないと思われたコンセプト・アルバムでした。そして出来たのがこれ、ジーン・シモンズ発案の「ジ・エルダー」というアメコミ的勧善懲悪ストーリーに基づいたロック・オペラです。

 「ファンファーレ」に始まり、「エルダーの戦士」で終わるまで、首尾一貫したストーリーが語られます。ロック・オペラですから、オーケストラやナレーションも当然のように入ります。ポップなロック・バンドがプログレをやるとこうなるぞという典型例です。

 まるでキッスらしくないとして当時から酷評の嵐でしたし、セールスも惨敗でした。メンバー、そしてボブまでもがネガティブな発言をしていますし、そもそも皆はあまり語りたがりません。不幸なアルバムです。

 しかし、取り立ててキッスのファンではない私は結構好きです。ロック・オペラはいろいろありますが、この作品はストーリーも分かりやすいし、楽曲は変に大げさにならずにポップさを保っていますし、いい線いっていると思います。

 結構、楽曲は粒ぞろいです。キッスらしいアレンジを施せばまた違う雰囲気になって売れたのかもしれないと思います。それでも彼らのソング・ライティング能力の高さを見せつけます。ポップなハード・ロックはやはりキッスですね。

 少し残念なのは、ルー・リードの参加がほとんど話題にならなかったことです。キッスとルーの共作ですから、これは夢のような出来事のはずです。しかし、おそらくキッスのファンはルーの音楽を聴かず、ルーのファンはキッスを聴かないんでしょう。どちらからも話題になりませんでした。

 ルーさんは、全11曲中3曲にルイス・リードとして名前がクレジットされています。息がぴったりあっているようで、素敵な楽曲になっています。

 不幸なアルバムですが、あまりキッス像に囚われずに聴くと悪くないアルバムですよ。

Music From "The Elder" / Kiss (1981 Casablanca)