予定より少し遅れましたが、無事にトミー・ヘヴンリーの新作が発売になりました。2013年は豊作でしたね。頑張って頂きました。感謝しておきたいと思います。

 今回のヘヴンリーは何だか不機嫌です。もともとダークサイドのキャラクターではありますが、機嫌が良い時もあったように思います。しかし、今作ではよりやさぐれ度合いが増しているような気がします。グランジ全開です。

 川瀬さんのインタビューを読みますと、「正直、すごいスランプになっちゃって」ということだそうです。その原因は、「前作を出したことでフェブラリーの世界観にエンジンがかかって、続きをやりたくなっちゃったんですよ。」ということです。

 ヘヴンリーがぐれるはずです。生みの親にまで邪険にされたわけですからねえ。恐らくその呪いがスランプになった原因でしょう。キャラクターを創造するということはフランケンシュタインの昔から恐ろしいことです。

 ところがそれが凶と出たかと言うとそうでもないところが面白いところです。フェブラリーに乗っ取られかけて、若干、自身もフェブラリー化しつつあったヘヴンリーが自分を見つめ直した感じがします。やさぐれる自分を見つめるというのは切ないものです。

 ご本人の解説によれば、「ヘヴンリーはもっと外の世界に行きたいけど、ここから出られないのは悟っている」ので、「外に出られないからこそ、ここを変えていかに楽しむかっていう状態」だということです。よく分かります。フェブラリーの世界観とは違いますね。

 それでこのサウンドが出てくるところが面白いです。退行して幼児化するのではなくて、より攻撃的になる。同じ引きこもりでも青髭公や吸血鬼のイメージですね。一曲目は「アイ・ウォント・ユア・ブラッド」ですし。

 サウンドはいつもの奥田節に磨きがかかっています。奥行きのある安心できる曲作りです。シングル・カットされた「ルビー・アイズ」などはもうヘヴンリーのスタンダードそのものです。他の楽曲もほとんどがグランジ仕様のヘヴンリー・スタイルです。

 また、ブリグリの「アッシュ・ライク・スノー」が英語詞でカバーされています。ちゃんとヘヴンリー仕様になっていて面白いです。こだわりますねえ。しかし、アルバムの中で異彩を放つ「キャン・ユー・ヒア・ミー」はどちらかと言うとゆったりとした広がりを感じるリズムがブリグリっぽいです。とてもいい曲なので大好きなんですが。

 今回も特段冒険はないのですけれども、ヘヴンリーの世界観には磨きがかかり、楽曲群も高い水準で安心して聴けます。このまま毎年アルバムを出してくれれば、それで幸せです。

(インタビューはナタリーから)

Tommy Ice Cream Heaven Forever / Tommy Heavenly 6 (2013 Warner)