少し前のことですが、結婚式場でアルバイトしていた方に伺うと、ほとんどの披露宴でAKB48の「ヘビー・ローテーション」が歌われたということです。結婚式の定番ソングなんですね。

 同じ結婚式の定番でも余興の定番ではなくて、宴を盛り上げるBGMの定番の一つがエンヤなんだそうですね。エンヤのメジャー2作目にあたるこの作品はよくかかるようです。特に「ブック・オブ・デイズ」は定番中の定番らしいです。そういえば披露宴で聴いたことがあるような気がします。

 この作品はグラミー賞のベスト・ニューエイジ・アルバム賞を受賞しています。ニュー・エイジという分類は何とも胡散臭くて好きではなかったんですけれども、エンヤの受賞を機に考えが変わりました。他のジャンルと同じく玉石混淆なだけですね。それに定義としては披露宴でかかる音楽としておけばパーフェクトかもしれません。

 ところで、このアルバムは売れました。イギリスで1位はもちろんのこと、米国でも200週以上にわたりチャート・インするという息の長いヒットになっています。全世界での売上はまたまた1000万枚を越えました。すごいですね。

 前作から3年。ライナーによれば、もともと前作もワーナーUKの会長がエンヤにほれ込んで、「何年かかってもいいから、納得のいくすぐれたアルバムを作ってほしい」とかき口説いて制作したそうです。それが大ヒットしたわけですから、この作品の制作にあたる環境たるや多くのミュージシャンが望んでも得られないものだったことでしょう。

 しかも基本的には前作と同じく、エンヤさんとライアン夫妻のトリオでの制作で、多重録音を駆使して練りに練っていくという手法です。それでいて締切があるのかないのか分からないとなると、「『完成させる』ということが一番難しいの」ということになるでしょうね。

 「完成の兆し?それはかなり明白に感じるものなのよ。最終段階になれば、スタジオに入るだけで、すべてがあるべきところにある、という感覚がわいてくる」そうです。何かが舞い降りてくるんでしょうね。名人達人の域を垣間見ることができるお話です。

 そうして「完成」した本作品は、前作に比べるとより落ち着いた雰囲気を持っています。録音の重ね方も大人しく聴こえますし、多重録音されたボーカルも静謐なムードを讃えています。「カリビアン・ブルー」なんていう意表をついた題名の曲もありますが、はねるでもなく、しっとりと落ち着いています。

 エンヤさん自身は特にケルト文化を意識はしていないようですけれども、ちょうどワールド・ミュージックのブームが到来していた時期だっただけに、ヨーロッパ・エスニックとして捉える向きが強かった気がします。

 とにかく背後に大きな広がりを感じさせる見事な音楽はさらに磨きがかかり、より美しくなりました。見事なもんです。こんな音楽を披露宴でならされたら堪りませんね。

(引用は松山晋也さんのライナーノーツから)

Shepherd Moon / Enya (1991 Warner)