どこかで「日本のローデリウス」と紹介されていたのに興味を覚えて購入しました。あまりローデリウスさんと似ているとも思えないのですけれども、出会いを与えてくれた言葉に感謝いたします。

 三富栄治さんは、日本のテクノ・ミニマリスト竹村延和さんのレーベルからアルバムを出しているギタリストです。その3枚のアルバムはいずれもソロのエレキ・ギター作品だったそうです。残念ながら聴いたことはありませんが。

 本作品では、4人のミュージシャンと共演しています。ヴァイオリン他弦楽器担当の波多野敦子さんはジム・オルークなどと一緒にやっていた人で、他の三人もなかなかの経歴の持ち主のようです。ちなみに他の三人は、フルート、コントラヴバス、ドラムスです。

 そんな人たちが奏でる基本的には静かなメロディーの穏やかな室内楽アンサンブルです。本作では「聴き易いものを目指したんです。色んな人に聴いてもらえた方がいいっしょ!っていう感じ(笑)」ということだそうです。

 さらに、「わざと難解にするのとか、全く興味がなくて。わかり易く、気持ち良いとか、綺麗だね、とか。そう思ってもらえたらいいな、っていう。それだけですね。シリアスに考え過ぎると、八方塞りになっちゃう。」ともおっしゃっており、肩の力の抜け具合がよく分かります。

 その言葉の通り、とてもシンプルで自然。きわめてナチュラルかつノスタルジックなサウンドで構成された作品です。そんなサウンドを「情景というか。その情景の中で起こっているドラマなんかがあって、その世界の中の音楽を作るみたいな感じかな」という姿勢で作っている。サントラ的ですね。

 そこらあたりが冒頭で名前を挙げたローデリウスさんとは違うところだと思います。あちらの作品もメルヘンチックでしたし、無理やりドラマのサントラに仕立てましたが、やはり意味性を排除する傾向が強かったので、曲に情景やドラマが込められているわけではありませんでした。

 一方、三富さんの作品は、様々な情景を思わせるところがあり、聴き手の感情を喚起するところがあります。時に感傷の度が過ぎると下品になりかねないわけですけれども、ここでのサウンドは見事に繊細かつ上品です。

 なかなか分類することが難しい音楽ですから、あまり紹介される機会がなくて損をしているのではないかなと思います。とても気持ちの良い音楽ですから、ぜひ広まってほしいものです。

 電車の中でも聴いてみましたが、心安らかに別世界を感じることができますよ。

(引用はこちらから)

ひかりのたび / 三富栄治 (2013 Sweet Dreams Press)

動画は見当たりませんでしたので、公式サイトで音源をご体験下さい。