NHKの大河ドラマと言えば、昔は紅白歌合戦ほどではないものの、基本的にみんなが見るものとされていました。我が家もその例に漏れず、毎年見ておりました。両親は今でも毎年見ているものと思います。

 このCDに収められている作品のうちで最も古いのは1966年の「源義経」です。私は6歳でしたけれども、緒方拳演じる弁慶の仁王立ちのシーンを覚えています。子ども心に衝撃を受けました。音楽も何となく覚えています。

 長じてあまり大河ドラマを見ることはなくなりましたが、「篤姫」以降、「平清盛」「八重の桜」と飛び飛びではあるものの、しっかり見るようになりました。中抜けでまた原点に戻った気持ちです。

 「平清盛」では、吉松隆さんの音楽には強く引き付けられるものがあり、サントラを買って楽しんでおりましたので、大河の音楽に遡及的に興味が湧いておりました。そんな時にNHKで「坂本龍一 音楽で楽しむ大河ドラマ」が放映されましたから、世間も同じように思っていたのかもしれません。シンクロニシティーです。

 番組は面白かったのですが、いかんせん時間が短くて紹介された音楽は限られたものでした。またまた世間は同じ気持ちだったのでしょう、NHKはこうしてCDを制作してくれました。ただ、欲を言えば二枚組にして全曲収録してほしかった。

 歴代大河のオープニング・テーマばかり全16曲を収めたCDです。オープニング・テーマですから、曲は短く、しかもほとんどの曲がくっきりとした分かりやすいメロディーを持っています。さながら、ヒット曲を集めたコンピレーションのようです。息つく暇なし。

 そんな性格ですから、クラシック畑の方とポップス畑の方が仲良く同居していてさほど違和感がありません。大河の旗印のもとに日本のあらゆる音楽勢力が垣根を越えて結集したようです。かなりバラエティーに富んでいるのですが、見事にすべては大河です。

 作曲家は、クラシックというか現代音楽畑では武満徹、間宮芳生、三善晃、林光、湯浅譲二、ポップス畑からはダウンダウン・ブギウギ・バンドの宇崎竜童、「もしもピアノが弾けたなら」の坂田晃一、さだまさしのパートナー渡辺俊幸、「母を訪ねて三千里」の岩代太郎。三枝成彰と毛利蔵人はどちらとも言い難いですね。

 このCDに収められていない人々では、エンニオ・モリコーネや大島ミチル、富田勲に山本直純など、そうそうたる名前が並んでいます。こういう競作というのは面白いものですね。「平清盛」の吉松隆さんも、「八重の桜」の坂本龍一さんも大河であることに雁字搦めにされながら作品をひねりだした様子がうかがえますから、まさに歴史に名を残すための試練です。

 さすがに初期の頃と今では録音が随分違うものの、見事に太い大河の流れが連続しています。和楽器を使ったり、合唱やシンセを使ったり、ハリウッド風あり、現代音楽風あり、イタリア映画のサントラ風あり、ロマンチックな作風あり。一様に「大河」との戦いの結果であることがよく分かるところが面白いです。

 自分史に重ね合わせながら楽しめる格好の一枚です。子どもの頃からこういう質の高い音楽に触れていたということが誇らしくなります。一家に一枚、どうですか。

 
音楽で楽しむ大河ドラマ / 坂本龍一選 (2013 NHK)