$あれも聴きたいこれも聴きたい ヴィヴァルディの「四季」と言えば、私の世代にとっては、音楽の授業で最初に鑑賞させられる楽曲でした。恐らくそのせいでしょう、日本ではクラシックの楽曲の中にあって、ベートーヴェンの「運命」とならぶ認知度があるように思います。

 その「四季」の再構築に挑んだ作品がこちらです。リコンポウズド・シリーズはクラシックの名曲を、若干畑違いの現代の音楽家が再構築するシリーズで、とても面白いものです。この作品は、現代音楽のマックス・リヒターによる作品で、英米独のiTunesのクラシカル・チャートではトップになったヒット作です。

 再構築のやり方にはいろいろあるのですが、ここでのリヒターさんは、音符のレベルまで楽譜の中に入り込んで書き直すやり方をとっています。その結果、原曲の75%は切り捨てられているとのことです。しかし、それでも明らかに「四季」なんですね。

 冒頭におかれた「春、第0楽章」は、第一楽章のために、「エレクトロニックでアンビエントな空間を用意するプレリュード」の役割を果たしているとしています。曲のいくつかでは、聞こえないくらいのエレクトロニクスが使われており、現在の音楽言語であるところの電子音楽宇宙とのつながりが意識されていることは明らかです。

 これにとどまらず、ヘビーなリズムの「夏」ではレッド・ツェッペリンのジョン・ボーナムのドラム、「秋」のハープシコードでは、ビートルズの「アビー・ロード」やビーチ・ボーイズが意識されているとリヒターさんは語っています。

 要するに、現代に生きているリヒターさんの音楽参照軸が持ち込まれており、その中での再構築が試みられているわけです。したがって、過去の研究という意味でのクラシック音楽の参照軸を持たない私などにとっても、とても分かりやすい。クラシックにあっては新感覚です。

 演奏しているのは、バイオリン・ソロでまたしてもダニエル・ホープ。彼のソロ・アルバムにはマックス・リヒターさんの曲が収められていました。二人は波長が合うんでしょうね。そして、アンドレ・デ・リッダー指揮によるベルリン・コンツェルトハウス室内管弦楽団の演奏です。コンサート・マスターは日本の誇るヴァイオリニストの日下紗矢子さんです。

 演奏する皆さんにとっては、ヴィヴァルディの「四季」などはもはや頭の中に埋め込まれているでしょうから、こうした再構築作品の演奏には苦労があった模様です。全くの新作ならばともかく、弾き慣れたフレーズが色濃く残っているのに別作品。やりにくいことでしょう。

 リヒターさんは元はスティーヴ・ライヒの作品を演奏するために結成されたグループにいたくらいですから、ミニマル音楽的な要素を色濃く持っている人です。その彼による再構築ということですから、ミニマルな感覚が横溢しています。

 楽曲がもともと持ち合わせていたミニマルなパルスをくっきりと現すことに成功しているという言い方が正しいのでしょう。有名なフレーズが新たな息吹を得て、見事に甦っています。そこが何とも魅力的。見事に鉱脈を掘り進めてダイヤモンドを持ち帰ってくれました。

 クラシック音楽の新しい楽しみ方を提示する素晴らしい作品だと思います。
 

Recomposed by Max Richter, Vivaldi "The Four Seasons" / Max Richter, Daniel Hope, Andre de Ridder (2012 Deutsche Grammophon)