$あれも聴きたいこれも聴きたい このアルバムを聴き終わるたびに、「あれ、『パワー・オブ・ラヴ』は入ってなかったんだ」と思ってしまいます。いわずと知れた彼ら最大のヒット曲にして「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の主題歌です。

 私の頭の中では、彼ら最大のヒット作のアルバムとシングルがごちゃごちゃになっています。どちらもそれほどまでの代表作ぶりです。かと言って、決して一発屋ではありませんよ。彼らは当時まぎれもなくアメリカを代表するロック・バンドでした。

 ヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニュースは、もとはカリフォルニアのローカル・バンドが出自です。その後、クローバーというバンド時代にイギリスで活動した後、ベイ・エリアに戻ってバンド名を改めて80年7月にデビューしました。この作品は彼らの3枚目のアルバムです。

 とにかく売れました。発売後1年半を経て全米1位を獲得し、800万枚を売る大ヒットです。84年にはマイケル・ジャクソンの「スリラー」に次ぐ年間2位を獲得しています。日本ではそこまで売れませんでしたが、当時はMTV黎明期、日本ではベストヒットUSAの常連として大活躍でした。映像とともに思い出します。

 彼らはイギリス時代にはエルヴィス・コステロのデビュー作のバッキングを務めました。もともとニック・ロウの勧めで渡英したそうですから、パブ・ロックの流れに位置づけられたのだということが分かります。サウンドはまさにそんな感じです。

 ブキブキのロックンロールです。カントリー、ブルース、ロックンロール、オールディーズ、それに80年代ポップを正面から武骨に料理したサウンドが彼らの持ち味です。豪快にシンプルに繰り出されるサウンドはとても気持ちのいいものでした。

 ただし、ロックンロールにこだわりすぎるでもなく、すっと爽やかに80年代初めにはやったシンセ・サウンドなども入れ込んでいますし、カバー曲も普通に同居しています。何とも正直な人たちで、気持ちが良いです。

 全9曲が収められたこの作品からはなんと5曲ものヒット曲が生まれ、そのうち4曲はトップ10ヒットとなっています。そこまでヒットすれば常人離れしたオーラが生じるものですけれども、彼らはそうはならない。相変わらず等身大でした。

 渋谷陽一さんの言葉によれば、彼らの作品は「良質な大衆消費財」です。見事な表現だと思います。定番のお菓子のように、身近にある飽きのこないおいしさがありますし、一方で、見事な職人仕事になっています。

 彼らのことを特別に大好きだという人には会ったことがありませんけれども、彼らのことを嫌いだと言う人にも会ったことはありません。彼らの音楽を知る人のほとんどは、「どちらかと言えば好き」に丸をつけるのではないでしょうか。

 一度は聴くべきアルバムです。

Sports / Huey Lewis And The News (1983 Chrysalis)