$あれも聴きたいこれも聴きたい 日本の誇るキング・オブ・ノイズ、非常階段が日本の誇るボーカロイド、初音ミクと共演するという何とも素敵な作品です。この作品は第二弾、初のフル・アルバムです。全曲カバー曲になっていて、選曲がまた渋いです。

 アングラ的なところは、佐井好子さんとか、頭脳警察、裸のラリーズ、ジャックスがありますが、由紀さおりの名曲「手紙」だとか、オフコースの「YES-YES-YES」、チューリップの「虹とスニーカーの頃」、アニソンで「カントリー・ロード」、ルパン三世の「炎のたからもの」、エヴァの「残酷な天使のテーゼ」、洋楽では唯一ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの「サンデー・モーニング」。

 日本ではボカロやアニソンがCD業界の救世主になっています。ノイズ音楽の世界は言葉通りの意味でのオルタナティブな世界ということで、そうした世界と通底しているのだろうと思います。とても相性がよいです。

 初音ミクさんは、普通に原曲通りに歌っています。そして、ベーシックなリズム・トラックも原曲に忠実です。そこにキング・オブ・ノイズが被さっていくスタイルです。何だか普通にとても綺麗な音です。いい感じです。

 私は非常階段の純粋ノイズ作品しか聴いていなかったので、本作を聴いた第一印象は、あっ、楽器もちゃんと弾くんだ、というものでした。しかし、メンバーのJOJO広重さんの他の作品はノイズだけではないですし、彼らの30年の軌跡の中では私の認識が不足していました。

 初音ミクさんはどんなに周りが煽ろうが、音を外そうが、何をしようが音程を外さない人です。リズムも徹底的にしっかりキープします。歌伴という観念が全く欠けている共演ということのはずです。

 ところが、聴いた印象は、まるで人のカラオケを聴いているようでもあります。伴奏に合わせて女子校生が歌っている感じ。本来は逆で、歌に合わせて演奏しているわけですよね。でもそうは聴こえない。一体何なんでしょう。私の固定観念に原因があるのでしょうか、それとも初音ミクさんは伴奏を聴いているのでしょうか。

 というわけで何だか不思議な気がしてくるのですけれども、サウンドはとても素敵です。ライブ映像を見ると、非常階段の方々のノイズさばきは職人技です。ぴしっとノイズを決めるのはなかなか難しいのではないかと思いますが、実に軽やかに操作されています。30年の熟練は伊達ではありません。

 欲を言えば、もっとぐちゃぐちゃなのも聴きたいなと思いました。「サンデー・モーニング」や「からっぽの世界」はかなり独自のアレンジになっていますが、頑固な原曲の力がある「手紙」や「カントリー・ロード」などは、そうはなっていない。何をしても音を外さないミクさんですから、滅茶苦茶やってもよかったのにと少し思いました。

 ただ、このコラボはそういう意図ではないようです。綺麗な歌にノイズをギターやキーボードの代わりのように合わせていくということなんでしょう。繰り返しになりますが、ノイズも綺麗です。富田勲さんのオーケストラとミクさん、ここでのノイズとミクさん。電子チューンばかりじゃないぞということで、こちらが主流になりそうな素敵な作品です。

Vacant World / Hatsune Kaidan (2013 U-Rythmix)