$あれも聴きたいこれも聴きたい
 コンピューター音楽は数多くなってきたけれども、機械のサウンドに人間の温もりを与えられるバンドはニュー・オーダーとペット・ショップ・ボーイズしかいないとは、90年代初めのある英国の新聞記事です。当時は妙に納得したので、今に至るも覚えております。

 レコード会社の日本語公式サイトによれば、ペット・ショップ・ボーイズは1984年の「デビュー以来14年間に」「35枚のシングルを発表し、そのうち3枚を除いて残り32枚全てが全英トップ20にチャートイン」している人気ユニットです。

 さらに「日本での人気も絶大で、アルバム通算出荷数200万枚以上」です。そのわりには公式サイトのバイオ記事が古いですが、「確信犯的にポップ・ミュージックを追求してきたPSBは、ミュージシャン、DJ、リミキサー達から今も高くリスペクトされて」います。

 この作品は彼らの7枚目のアルバムです。ミュージカル作品向けに書かれた曲がまとまったので出してみたアルバムのようです。実際に曲の大半は「クローサー・トゥー・ヘヴン」というミュージカル作品に使用されています。

 曲調からはミュージカルだと言われてもよく分かりませんが、タイトルが「君が何が欲しいのか僕は知らないけど、もうそれをあげられないよ」とか、「あなたは酔っぱらった時しか私を愛してるって言わない」とか、いかにもミュージカル的なものがあります。

 当時、不調のどん底にあったカイリー・ミノーグをデュエットで起用したり、カントリー調の曲あり、ディスコのパロディーのような大ヒット曲「ニューヨーク・シティ・ボーイ」がありと、今回も工夫は行き届いています。それに持ち味のポップさも健在で、安心して聴ける一枚です。

 私はこの作品も含めて彼らの音楽を大好きなのですが、いつも私のレコード棚には彼らの作品が一枚だけあります。彼らの多くの作品を購入しましたが、かつてはレコードやCDを定期的に処分していまして、気がつけば彼らの作品はいつも1枚だけになっています。

 アルバムごとに表情も違うはずですし、一枚のアルバムの中でも工夫が凝らされていて、聴き通しても全然飽きません。しかし、聴き終わってしばらく経つと、どのアルバムだったかよく分からなくなっている自分がいます。

 これは恐らくニール・テナントの声のなせる技でしょう。全てを塗りこめてしまうボーカル技。ポップ・マエストロの基本的には変わらない姿勢とこの声。ペット・ショップ・ボーイズの曲を聴くといつも安心するのはそのせいです。クラブ系と言われないのもそのせいかもしれません。

 思えば彼らはデビュー当初から先鋭的でありながらポップさを全開にした作風が完成されていました。全部の作品を並べてみると、最初から完成されているだけに、曲をシャッフルしてもそれほど違和感がないんです。

 ペット・ショップ・ボーイズは一時「ポップ・ミュージックの真髄を理解していた」と思っていたそうです。あながち間違いではないと思います。本作などもポップスを聴く人には必ず一度は聴いてほしい作品です。まあペット・ショップ・ボーイズならどの作品でもいいのですが。 

Edited on 2018/5/13 

Nightlife / Pet Shop Boys (1999 Parlophone)