$あれも聴きたいこれも聴きたい 自分で言語を作ってみよう、なんてことは子どもであれば誰でも考えつくことです。しかし、そんな試みを実際にやり遂げる人はほとんどいません。あまりの大変さにすぐに挫折してしまいます。

 自分で言語を作り出す試みは、世界を丸ごと編集し直すという気宇壮大な試みです。ワーグナーやマーラーなどクラシックの大作曲家が音楽でやろうとしたこと、クトゥルフ神話でラヴクラフトがやろうとしたことなどと相通じる大事業です。素直に敬意を表します。

 クリスチャン・ヴァンデを中心とするフレンチ・プログレの王者マグマはまさに独自の言語を開発しました。宇宙から来たコバイア星人の言語コバイア語がそれです。コバイア語を駆使して語られる物語は壮大な体系になっています。

 この作品は、1969年に結成したマグマの3作目にして代表作です。これはトゥーザムターク3部作の第3部に該当するそうです。ちなみにこれ以前には第1部、第2部は発表されていませんが、構想も壮大だということが分かっていただけると思います。

 私にはコバイア語は理解できませんが、この作品の各楽曲につけられた邦題を並べるだけで、話の流れはつかめるのではないかと思います。行きますよ。「呪われし人種、地球人」「永遠の黙示あらば」「惑星コバイア」「賛美歌」「救世主『ネベヤ・グダット』」「地球文明の崩壊」「森羅万象の聖霊『クロイン・クォアマーン』」。

 全7曲ですが、7部に分かれているというだけで、曲としては一体として演奏されます。クラシック的です。さらにサウンドはクリスチャンの奥さんだったステラ・ヴァンデやマグマになくてはならないヴォーカリスト、クラウス・ブラスキスを中心とするオペラ的な混声合唱隊が大々的にフィーチャーされています。

 クリスチャン・ヴァンデはドラムを叩いていまして、その他の楽器もロック的な編成なのですが、各楽器はソロをとるというよりも、全体にミニマルなビートを刻むことに徹しています。その中で混声合唱隊がコバイア語を唱えるわけです。

 彼らの音楽はズール音楽と呼ばれます。そうしてマグマに影響を受けたバンドはズール系などと称されます。言語を作るくらいですから、新しいジャンルを作るなんて朝飯前でしょう。

 この作品以前のマグマは、まだ合唱が入っておらず、ブラスを中心としたジャズ・ロック的な演奏だったそうですから、ズール音楽はこの作品をもって完成したと言えるかと思います。伊藤直継さんのライナーを引用すれば「比類無きドラマチックな楽曲、卓越した演奏技術を携えるメンバーの頻繁な出入り、そして活動開始から一貫して存在するコンセプト」で世界に影響力を行使したマグマ・サウンドの完成です。

 フランスのプログレらしく、若干もたもたしたリズムですが、あまりの企みの壮大さに気おされて、そんなことなどどうでもいいと思わせる見事な作品です。お見事。

Mekanik Destruktiw Kommandoh / Magma (1973 A&M)