$あれも聴きたいこれも聴きたい まさに何でもありです。このワイクリフ・ジョン、アウトキャストのアンドレ3000、ブラック・アイド・ピーズのウィル・アイ・アムあたりのヒップ・ホップ・ミュージシャンの系譜は本当に凄いと思います。サンプリングの使い方から何から自由自在で、そこまでやるかと驚き満載です。

 ワイクリフ・ジョンは子どもの頃にアメリカに移住したハイチ人でミュージシャンです。2010年にはハイチの大統領選に立候補しようとしますが、在住期間が足りないとして受理されませんでした。慈善活動にも熱心な彼だけに残念なことでした。

 この作品はワイクリフさんのソロ・デビュー作品です。彼はフージーズで世界的な大成功を収めましたが、各メンバーは何となくソロ活動に移行していきました。ワイクリフさんは、デスティニー・チャイルドのプロデュースなどで活躍するかたわら発表したのがこの作品です。

 ソロではありますが、本人に加えて、フージーズのローリン・ヒルもプラースもプロデューサーに名を連ね、演奏にもかなり参加していますから、当時、私はフージーズの新アルバムのようなものと解釈していました。勢いありましたからね。

 小芝居仕立てになっています。よく分かりませんが、どうやらワイクリフさんが訴えられて裁判が行われていることになっているようです。これが20曲目まで続きます。20曲ではありますが、そのうち、7曲は曲というより小芝居です。

 20曲目で裁判は終わり、21曲目のイントロを経て、ハイチの言語で歌われる残りの3曲に突入します。ここは少しそれまでとは感じが異なっています。最後の曲がアルバムの表題曲になっていますから、メッセージ的にはむしろこちらがメインなんでしょうかね。

 何でもありじゃん、と思ったのは、この中のヒット曲「ウィ・トライング・トゥー・ステイ・アライヴ」です。ビージーズの大ヒット曲「ステイン・アライヴ」を大々的にサンプリングした作品です。フージーズの「やさしく歌って」は秀逸なカバー曲でしたが、こちらはカバーということではありません。

 印象的なリフからボーカルまでそれと分かるようにサンプリングして、それとともにラップをかますというものです。苦々しく思う人も多いでしょうし、私も最初はいいのかと思いましたが、これが素晴らしいんですね。まあいいやと私の許容度を広げてくれた曲になりました。

 他には意表をつくところですが、ダニエル・リカーリの「ふたりの天使」。♪ダバダー♪ってやつです。こんな曲をサンプリングするかと思いましたが、これが気になる気になる。2曲目ですけれども、これからは何が起きても驚くなと言われているようです。

 キューバの国民的な歌「グアンタナメラ」には、何とキューバの生んだサルサの女王セリア・クルースがゲスト参加しています。あまりにベタです。しかし、さすがにこれは素晴らしい。意表をついて王道をもってくる。これもありかい、と思いました。

 さらには「モナリザ」ではネヴィル・ブラザーズが参加しています。これもねえ。驚きです。他のゲストは比較的分かりやすくて、後にエイミー・ワインハウスとの仕事で有名になるサミール・レミなどフージーズ周辺の仲間たちですから。

 百貨店作品です。音楽的な冒険は多いのでしょう。しかし、とても分かりやすいサウンドです。彼独特の少しゆったりしたリズム感で、哀愁が全体に漂っており、何とも素敵な作品になりました。全米16位の大ヒットとなり、フージーズはローリン・ヒルだけではないぞと世界に知らしめました。

 何度聴いても新しい発見のある本当に素敵な作品です。

The Carnival / Wyclef Jean featuring Refugee Allstars (1997 Sony)