$あれも聴きたいこれも聴きたい 大学では第二外国語としてフランス語を専攻しました。ランボーの詩が読みたいというかっこつけた動機でしたけれども、結局「星の王子さま」どまりでした。それに何より私は詩に対する感受性が著しく欠けているようです。

 ステファヌ・マラルメは、フランスの象徴主義を代表する詩人です。ブーレーズのテキストによれば、マラルメはフランス語の構造を全く新たに構築し直した人です。そして、詩の構造の中に、言語のもつ音と意味が完全に融合しているとのこと。ですから、音楽の構造がすでに含まれているわけです。

 この作品は、現代音楽の寵児ピエール・ブーレーズが、マラルメの詩を音楽に翻訳した作品です。楽曲は、「たまもの」と「墓」をはさんで3つの「マラルメによる即興曲」から構成されています。各楽曲ではソプラノ歌手、ここではハリナ・ルコンスカさんがマラルメの詩を歌っています。

 すでに詩の中に音楽があるわけですから、ブーレーズさんはそれを編曲したということになるのかもしれません。私のマラルメ理解が中途半端なので、そこまで深い聴き方は全くできないところがもどかしいですけれども。

 指揮はブーレーズ本人、オーケストラはBBC交響楽団で、この曲の初録音になります。何回も改訂されているようですけれども、これは84年の大改訂前の姿を記録したものです。改訂を重ねるということは、即興の要素はどんどん小さくなったんでしょうかね。

 サウンドは典型的な現代音楽だと思います。結構な人数のオーケストラによる間の多い演奏です。ストラビンスキーに言わせると、「とても単調で、単調で美しい」です。ああ、これでは伝わりませんね。「とても」と「美しい」が両方「プリティー」なんです。英語ではうまいこと言っています。

 緊張感に溢れる演奏ですが、かなり単調だとも言えます。メロディーやリズムがはっきりしていないので、そう思えてしまいます。構成もまるで詩のようです。起承転結とかありません。ただただ、音の美しさを拾っていく、そんな感じでしょうか。

 私は、打楽器の活躍する「マラルメによる即興曲3」と、どしゃどしゃ派手に音の鳴る最後の「墓」が好きです。フリー・ジャズ的な音楽ですから、やっぱり賑やかな方が私には合っています。賑やかな「墓」というのもなかなかいいものです。

 ところで、詩作を翻訳した楽曲ですから、どのように聴くのが正しいのでしょうか。ブーレーズさん自身は、読みながら聴くことを推奨していません。ちゃんと読んでから聴けということのようですね。

 表題の「プリ・スロン・プリ」は、この作品には使われていないマラルメの詩からとられています。ブルージュの街並みを覆った霧が少しずつ晴れていくという情景を意味しています。同じように、曲が進むにつれてマラルメの肖像が少しずつ表れてくるのだと作曲者は語ります。

 なかなかハードルが高いですが、サウンド自体は結構分かりやすいのではないかと思います。

Boulez Conducts Boulez : Pli Selon Pli / Pierre Boulez, The BBC Symphony Orchestra (1969 Columbia)