$あれも聴きたいこれも聴きたい オールディーズのコンピの決定盤です。ここには1953年から64年までのヒット曲がつまっています。ということは、私は60年生まれですから、この音楽を聴いていたのは私の親の世代です。

 ということは、90年生まれの人にとっては、83年から94年のヒット曲のコンピレーションにこういう感慨を抱くということなんですね。何だか恐ろしい話です。そんな皆さんにとってのこの作品の音楽は、私にとっては戦前の歌ということになるわけですね。いやあ恐ろしいことです。

 「アメリカン・グラフィティ」は格別な映画です。中学生の頃、本当にこの映画に魅せられたものです。映画も何度も見ましたし、ノベライズ本も読みました。もう少し大きくなってからですが、さらにそのペーパーバックまで買って、一生懸命対比させながら読みました。人生初の洋書体験です。

 描かれているのは、1962年のサンフランシスコ郊外の街で若者たちに起こる一晩の出来事。宇宙人も出てこないし、殺人があるわけでもなく、ちょっとした甘いエピソードがまるで落書きのようにつづられます。アメリカの若者ならだれでも共感できる日常を描いたということで、青春映画の傑作です。

 しかし、私にとっては親の世代の出来事であることを除いても、全く非日常の世界です。アメリカと日本の違いは大きいです。もっぱら自由な国アメリカへの憧れがこの映画を覆い尽くしていました。みんな本当に楽しそうで羨ましかった。こっちは田舎の中学生ですから、夜友達と出歩くなんて、お祭りの日くらいしかなかったもんですからね。

 ジョージ・ルーカス、リチャード・ドレイファス、ロン・ハワード、ハリソン・フォードと並べるだけでも超豪華な人々の駆け出し時代の作品であることもポイントが高いです。何かがある。そういう映画でした。

 そして音楽がもうぴったり。ヒット曲をこういう形で使った映画は初めてではないでしょうか。全編で背景に流れていて、さらに曲が物語の進行に大きな役割を果たしています。ルーカス監督の選曲だそうですが、まことに見事です。

 というわけで、CD二枚組を流していますと、とても懐かしい気持ちになります。しかし、曲が流行っていた時代を直接知っているわけではありません。初めからオールディーズです。これらの曲を懐かしいと思う人々と一緒に、最初から懐かしさと込みで聴いていたというややこしい話です。

 懐かしさの眼鏡を外して聴いてみますと、好きな曲もあるし、そうでない曲もあるという、コンピにありがちな事態に直面します。バディ・ホリーやブッカーTとMGズは最高ですし、デル・シャノンの「悲しき街角」やクローバーズの「恋の特効薬」、プラターズの「オンリー・ユー」、クレスツの「シックスティーン・キャンドルズ」などの有名曲もいい。

 しかし、そうでない曲も多いので、やっぱり映画と一緒に聴いた方がよさそうです。

American Graffiti / Original Soundtrack (1973 MCA)