$あれも聴きたいこれも聴きたい 加藤さんの前作を聴いてから、早2年がたちました。とても新鮮に感じましたから、もっと最近のことだと思っていたので少しびっくりしました。

 その加藤さんから成功を収めた前作「クニコ・プレイズ・ライヒ」に続く新作が届けられました。ワクワクしながら聴きましたけれども、これはまた前作とは随分趣きを異にしていまして、またまた新鮮な驚きでした。

 この作品でもミニマル御三家の一人スティーヴ・ライヒの「ニューヨーク・カウンターポイント」のマリンバ演奏が収められていて、そちらは前作と地続きです。砂粒がアクリル板の上ではねるような、量子力学的な素粒子の振る舞いを感じさせる刻まれた音の重なりは、相変わらずとても素敵です。

 ところが他の曲はかなり表情が違います。アルヴォ・ペルトの作曲になる曲が4曲、ハイウェル・デイヴィスの曲が1曲。いずれも跳ね回るのではなく、音がゆったりと連なって響いています。打楽器という言葉から普通に想像する音ではありません。

 たとえば、ハイウェルの「パール・グラウンド」は、マリンバのソロですが、加藤さんの言葉によれば、「曲の最初から最後までオールトレモロ&オールピアニッシモ、ラストは大きな鐘の余韻のような独特な低い響きが延々と続」きます。

 加藤さんはペルトをミニマリストと呼ぶと同時に「少々語弊があるかもしれない」と言われています。ミニマリストの定義にもよります。これもそうだと言われるとそうかもしれません。その「究極にシンプルで美しく、悲しくまた優しい荘厳な音の世界」はリズミカルではないものの、確かにミニマルな音で出来ています。

 本作の録音に当たっては、細心の注意が払われている様子がうかがえます。ここでのサウンドは音の響きが総てです。一音、一音、そして、その響き。それが総て。残響と余韻。「どうやっても一打点でしかな」い打楽器の「生音一音がどれだけ永く広がり、色彩豊かな世界観を表現できるのだろうか」がこの作品の挑戦です。

 本当に美しい音楽です。こちらの耳も研ぎ澄まされていきます。夕方、20分ほど時間をつぶす必要があったので、商業ビルの中庭のベンチでヘッドフォンで聴いてみました。行きかう人の姿を眺めながら耳元でなる「カントゥス」と「フラトレス」は天上と地上の境目から響いてくるようで素晴らしかったです。部屋の中よりも外が似合う音楽です。

 叩きまくる人だと思っていた加藤さんの見事なまでに美しいパフォーマンスに驚きました。サウンドを極めるというのはこういうことなんですね。ため息が出るほど美しい音楽です。また次回作が楽しみです。

Cantus / Kuniko (2013 Linn)

本作品の動画が見当たらないので、加藤さんの演奏姿なりともどうぞ。叩きまくってますが。