$あれも聴きたいこれも聴きたい 恐れ多くも畏くもやんごとなき名前を冠したフレンチ・ポップ・デュオのベスト盤です。ミカドはギルバート&サリヴァンのオペレッタでも有名ですし、ゲームの名前にもなっていますから、西洋人にはポピュラーなんでしょうかね。

 この作品はミカドのベスト盤です。彼らはベルギーのお洒落レーベルであるクレプスキュールからデビューしていますが、彼らのサウンドにほれ込んだ細野晴臣さんの手によって、日本でレコードを制作しています。

 日本ではミニアルバム「冬のノフラージュ」とフルアルバムを1枚出していて、それは総てこのベスト盤に網羅されています。クレプスキュールからのシングルも収められていますから、彼らのキャリアをすべて収録したアルバムなわけです。

 ミカドは女性ボーカルのパスカル・ボレー、サウンド担当のグレゴリー・ツェルキンスキーのフランス人二人組です。デビューは82年、活躍したのは80年代前半です。本当にお洒落なサウンドでした。当時はお洒落サウンド全盛期でしたが、ひときわ輝いておりました。

 パスカルの囁きボーカルをグレゴリーのペラペラなテクノっぽいサウンドが支える構造で、二人とも上手というわけではないので、センスがすべてですね。少しでも歯車が狂うとしょうもないサウンドになってしまうところです。それがそうはならない。素晴らしいです。

 ジャケットも素晴らしい。フランスのゲイ・カップル、ピエール・エ・ジルの写真で、オリジナル・アルバムには同じ作家の別の写真が使われていました。ピエールの写真をジルがレタッチする作風で、てかてかの質感が何ともキッチュな人たちです。

 代表曲「冬のノフラージュ」のPVも同じような感性のキッチュな魅力をたたえています。パリコレのお洒落感とは全く違う妙な魅力に溢れたお洒落です。下品すれすれの感覚ですから、少し間違うとひどいことになります。それがそうはならない。素晴らしいです。

 短い活動期間ながらも、全キャリアを網羅した作品ですから、そこには変化というものが見られます。クレプスキュールからのデビュー曲「パルアザール」に比べれば、細野さんプロデュースの方は随分ゴージャスです。ぺらんぺらんのリズムが、とてもタイトなリズム・トラックに変化しています。

 どちらも魅力的ですけれども、前者に愛着を持つ人も多いところです。音楽的な洗練と申しますか、テクノロジーの進化がつねに吉とでるわけではないという好例だとも言えますし、やはり洗練は素晴らしいとも言えましょう。

 彼らの佇まいがいいです。生まれながらにしてお洒落。本当は苦労人と引きこもりなのかもしれませんが、それでもお洒落。単なる私のフランス幻想なのかもしれませんが、その幻想を補強しまくる彼らの音楽です。

 日本で大人気だったというわけではありませんが、「冬のノフラージュ」はテレビCMにも使われて、知名度はそこそこでした。しかし、ウェブを検索しますと、多くの人の心に楔を打ち込んだデュオであることが分かります。私にとっても忘れられないバンドの一つです。

Forever / Mikado (1998 Le Vellage Vert)