$あれも聴きたいこれも聴きたい グループサウンズ、略してGSは60年代後半の日本芸能界を席巻しました。当時小学校低学年だった私ですら歌謡界に一大革命をもたらした彼らに憧れていました。

 しかし、山高ければ谷深しというわけで、全盛期はわずかに数年のことだったようです。一時のブームが嘘のように瞬く間に栄光から転落してしまい、その姿は子どもの眼にも随分残酷に映ったものです。子どもなればこそかもしれませんが。

 PYGはGSを代表する横綱格のグループであるタイガース、テンプターズ、スパイダースのメンバーからなるスーパーグループでした。地味なメンバーばかりではなく、ジュリーこと沢田研二さんとショーケンこと萩原健一さんというGS界の押しも押されもせぬ二大看板が加わっていましたから、本当の意味でのスーパーグループでした。

 小学校も高学年になって斜に構える姿勢も身につけた私にとっては、興味をもちながらもみっともないなあとしか思えない出来事でした。というわけで、当時はほとんどまともに聴いたことがありませんでした。

 しかし、人生も晩年に差し掛かった目で振り返ってみますと、なかなか味わいのある作品だということが分かります。メンバーは洋楽の世界で当時台頭してきていたニュー・ロックを目指していたといいます。念頭にあったのはクリームあたりでしょうかね。

 それまで歌謡界をフィールドとして活躍していた彼らですから、よりディープな世界に踏み込むことで、自らを規定する軛から逃れようとしたということではないかと思います。しかし、ジュリーとショーケンを入れたことから話はややこしくなります。

 アイドル的な人気を誇った二人でしたから、新世界への旅立ちを納得するファンばかりではありませんし、さらには細々とではあってもしっかり日本にもあったディープなロックの皆さんが彼らをすんなり受け入れるはずもない。

 さらにはジュリーを売り出したいプロダクションの思惑も絡むというややこしいややこしい背景があって、このアルバムが成立しています。したがって、本格的なロックではありますが、何やら苦悩がひしひしと伝わる内容になっています。

 PYGのメンバーは、それぞれがのちに大活躍します。とりわけ、井上堯之さんと大野克夫さんは作曲家やプロデューサーとして日本の音楽界に確固たる地位を築きます。歌謡界を制覇したジュリーや役者として大成功するショーケンや岸部一徳さんについては言うまでもありません。

 大きなGSの流れがここに収斂して、さらにここから太い流れとなって出ていく。ちょうど砂時計の中心部のような位置にあるバンドであり、アルバムであると言えます。これがあるからこそ後の成功がある。そういう位置にあります。

 サウンドはGSとニュー・ロックと歌謡曲のはざまに咲いたあだ花のごとき風情です。必ずしも何度も聴きたいと思うものではないのですが、歴史的には重要な作品であることは間違いありません。

Original First Album / PYG (1971 日本グラモフォン)