$あれも聴きたいこれも聴きたい ちょうどこのアルバムを聴いていた頃、インドのムンバイに行く機会がありました。そこで、たまたま手に取ったムンバイのタウン誌にこの作品のレビューを発見しました。インドらしいレビューを期待したのですが、割と普通のレビューでした。でもインドでちょっと人気あるんですね、彼ら。

 普通のレビューというのは、クイーンに似ている、アイアン・メイデンやら、スマパンやら昔のロックをよく聴いている、といった感じのレビューです。クイーンとの比較は本当によくなされます。しかし、クイーンのファンがこれを聴いて好きになるかどうかは五分五分でしょう。何といってもフレディの体臭がありませんから。

 ボーカルのジェラルド・ウェイはカリスマだと言われていますが、フレディとは全然方向が違います。ドラマチックな曲作りが似ているということでしょうけれども、それだけではあまり意味のある比較とは言えません。

 だいたい何かに似ているといって思考を停止してしまうのはよろしくありません。かつてNWOHMやグリーン・デイなどは、ずいぶんそういう言われ方をしていたものです。彼らの隆盛を目の当たりにして「しまった」と思った人も多いんじゃないでしょうか。みすみす新しい出会いをふいにしてしまう可能性が高いです。

 前置きが長くなりました。この作品は、ピンク・フロイドの「ザ・ウォール」などにも比肩されるコンセプト・アルバムです。正面から「死」の問題を取り扱った重い物語が進行していきます。各楽曲のテーマは見事に繋がっていて、全体が一つの作品になっています。

 サウンドは堂々たる正統派の王道ロックだと思います。各楽器の分離をよくして、それぞれを際立たせるのではなく、ウォール・オブ・サウンド的に塗りこめているところが2000年代です。そして、曲の構成とメロディー・ラインは実にドラマチックで演劇的です。それでいて若い疾走感に溢れているところが素敵です。

 アマゾンのサイトでは、「洋楽入門者に最適」なんて書いている人がいましたが、長年洋楽を聴いている私でも大変楽しめました。口ずさめる歌も多いし、カラオケで歌ってみたいと思わせる作品です。

 佳曲が並びますが、私の一押しは若さ全開の溌剌ナンバー、「ディス・イズ・ハウ・アイ・ディスアピア」です。一緒に歌うと爽快なことこの上ありませんし、今でも時々口をついて出てくるいい曲です。

 ところで、マイケミはレコード会社のサイトによれば、「パンク・ロック・バンド」だそうです。そういえば「パンク・ミーツ・クイーン」なんて書かれていたこともありました。ライバルはグリーン・デイだったようです。

 そういう観点から見れば、この作品を大人しくなったという人がいるのも分かります。それまでのファンが期待する方向からは微妙にずれているのでしょう。しかし、結局、こちらの方が彼らの王道となりました。しかも、彼らはその後、これを越える作品を生み出せずに解散してしまいます。彼らのキャリアに燦然と輝く、いや輝きすぎるアルバムになってしまいました。

 まあ、こんな傑作を残したんだから結構なことでしょう。

 ところで、気になることが一つ。彼らの名前です。「マイ」がつくバンドは、他にマイ・ブラディー・バレンタインとマイ・リトル・ラバーしか思い浮かびません。日本語だと、「私の」がついた途端にポエムになってしまいます。「私の青空」とか。そこのところ、英語だとどうなんでしょう。

The Black Parade / My Chemical Romance (2006 Reprise)