$あれも聴きたいこれも聴きたい
 前作「ブラザーズ・アンド・シスターズ」でオールマン・ブラザーズ・バンドに出会った私は彼らの時代をさかのぼって作品を聴いていきました。そして、その横綱相撲に夢中になっていきました。そんなところにこの新作「ウィン・ルーズ・オア・ドロー」が発表されました。

 6枚目のアルバムとなる本作品は発表当時、かなり評判が悪かったと記憶しています。アメリカン・ロックびいきのニュー・ミュージック・マガジンの中村とうよう氏は、「こういうレコードしか作れないのならいさぎよく解散した方がいい」とまで言い切っています。

 一方で、同氏は「かつてのあのオールマンの余香が全然感じられないというほどではない」ので、結局100点満点中78点の高得点をつけています。デュアン・オールマン時代の彼らを聴いていた人の反応は大たいそんな感じでした。私もそう思いました。

 やはり横綱となると大変です。常に優勝争いに絡んでいないと批判されます。10勝や11勝程度では、稽古が足りないとか、慢心したとか、気合が入っていないだとか、いろいろと言われてしまいます。この作品も全米5位の大ヒットですし、けして水準以下ではありません。

 おそらく初めてこの作品でオールマンズを知った人にとってはとても愛着のあるアルバムになっているのではなかと思います。過去を知らずに虚心坦懐に聴ける人がある意味ではうらやましいとさえ思います。調子が悪くても横綱は横綱なんですが。

 ただし、五十嵐正氏がライナー・ノーツに詳しく書いている本作品の制作裏話を読むと、この作品は確かに気合の入り方が足りなかったようです。メンバー全員が一堂に会することはほとんどなかったそうで、ファミリー感の強いバンドはばらばらになっていました。

 中村とうよう氏はとりわけリズムが弱いと指摘しています。それもそのはずで、7曲中2曲ではジェイモーとブッチ・トラックスのダブル・ドラムスが二人ともやって来なかったためにプロデューサーのジョニー・サンドリンとビル・スチュワートが代役を務めています。

 代役が立てられた曲以外でも気合が足りなかったことは容易に推察されます。さらにグレッグ・オールマンも、魔の歌姫シェールにうつつを抜かしていて、レコーディングにやってこなかったため、歌入れにはスタッフがグレッグのもとに飛んでいます。

 メンバーはばらばら、ジャム・バンドの性格が色濃いオールマン・ブラザーズ・バンドとはとても思えません。「いさぎよく解散した方がいい」という指摘もむべなるかなというところです。バンドの運営というものは難しいものです。二度の悲劇のストレスは想像を絶するのでしょう。

 しかし、そんな状態にもかかわらずこれだけのアルバムが出来上がっていると思うと凄いです。まあ自ら原因を作っているわけですから同情してもしょうがないわけですが。やはりオールマンズの名を背負っている自負は消えてはいなかったということでしょう。

 歌入れの時に風邪をひいていたとはとても思えないグレッグの歌唱が冴える名バラードのタイトル曲やチャック・リーヴェルのピアノが冴え渡るフュージョン色の濃い「ハイ・フォールズ」などは聴きものです。リーヴェルの活躍が横綱の面目を保ったともいえます。さすがです。

Win, Lose or Draw / The Allman Brothers Band (1975 Capricorn)

*2013年8月23日の記事を書き直しました。

参照:ニュー・ミュージック・マガジン1975年11月号



Tracks:
01. Can't Lose What You Never Had
02. Just Another Love Song
03. Nevertheless
04. Win, Lose Or Draw
05. Louisiana Lou And Three Card Monty John 夜明けのギャンブラー
06. High Falls
07. Sweet Mama

Personnel:
Gregg Allman : organ, clavinet, guitar, vocal
Richard Betts : guitar, vocal
Chuck Leavell : piano, synthesizer, clavinet, chorus
Lamar Williams : bass
Jaimoe : drums, percussion
Butch Trucks : drums, congas, percussion, tympani
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Johnny Sandlin : guitar, percussion
Bill Stewart : percussion