$あれも聴きたいこれも聴きたい
 暑い日が続くと、暑いところの音楽が聴きたくなります。暑さ寒さは音楽を選びます。私の場合は、じりじりと暑い日にはアメリカの大西部や深南部の音楽を聴きたくなります。アメリカは東海岸と西海岸しか行ったことがないので、単なるイメージの問題なのですが。

 オールマン・ブラザーズ・バンドの二作目です。前作がちっとも売れなかった彼らですが、いい音楽は必ず報われるとばかりにアメリカ中を演奏して回りました。これだけの実力バンドがさらに腕を磨いて演奏するわけですから、客に届かないわけがありません。

 結果として、この二作目「アイドルワイルド・サウス」は軽やかにトップ40ヒットと相成りました。前作に比べると、余裕が出てきたのでしょう、曲のバラエティーが増えました。大たい最初の出だしがアコースティック・ギターです。作曲者はディッキー・ベッツです。

 前作の曲作りはグレッグ・オールマン一人だけでしたから、これは大きな違いです。ベッツはカントリー音楽に大きな影響を受けた人です。ベッツはもう一曲担当していて、それがオールマンズの代表曲となる超名曲「エリザベス・リードの追憶」です。

 デュアンとベッツの二人のギターのバトルが熱いインストゥルメンタル曲で、ライブでの演奏の方が有名になっていますが、こちらが原曲です。7分弱と長めと言えば長めなんですが、ライブでは倍以上はやりますから、どうしても物足りない感じがしてしまいます。

 また、唯一のカバー曲となるブルース大王のマディ・ウォーターズの「フーチー・クーチー・マン」では、ベースのベリー・オウクリーがボーカルを担当しています。グレッグとは違う持ち味ながら、これもなかなか捨てがたいです。渋いです。

 グレッグの自作曲はどこか郷愁を誘うところが持ち味です。ここでも代表曲「ミッドナイト・ライダー」を始め、ブルース臭の濃いルーズな楽曲が並びます。前作よりもさらに洗練されてきています。この時はまだ23歳くらいですよ。老成の仕方が半端ないです。

 ライブをもの凄い数こなしていたことが彼らの老成につながったんでしょう。ところが、実際には、デュアンとベッツは憧れのエリック・クラプトンが会場に彼らを見に来たのを発見して手が止まったといいますから、齢相応のかわいい一面も持ち合わせています。

 さて、この作品は、出演していたクラブの厄介な経営者を刺殺してしまったという、ロード・マネジャーのトウィッグスに捧げられる一方、食料担当として彼らの貧乏時代を支えたレストラン経営者のルイーズの名前がクレジットされています。

 このあたりのファミリーな感じがとてもいいです。そのファミリーがきっとこういう雄大なグルーヴを生み出すのでしょう。グレートフル・デッドといい、オールマンズといい、アメリカ西部南部のバンドは総じてファミリーを大切にします。素敵です。

 彼らの大ブレイクはもう少し後になりますが、この作品は、その露払いとして貴重なアルバムです。この時点ですでに彼らは完成されていたのです。デュアン・オールマンの天才的なギターが堪能できるのは残りあとわずか。それを思うとさらに愛おしく思えてまいります。

Idlewild South / The Allman Brothers Band (1970 Capricorn)

*2013年8月16日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Revival
02. Don't Keep Me Wonderin'
03. Midnight Rider
04. In Memory Of Elizabeth Reed エリザベス・リードの追憶
05. Hoochie Coochie Man
06. Please Call Home
07. Leave My Blues At Home

Personnel:
Duane Allman : guitar
Gregg Allman : organ, vocal
Dicky Betts : guitar
Berry Oakley : bass, vocal
Butch Trucks : drums, tympani
Jai Johanny Johnson : drums, congas, timbales, percussion
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Thom Doucette : harmonica, percussion