$あれも聴きたいこれも聴きたい かなり恐ろしい写真を使ったジャケットですけれども、色遣いがほのぼのしています。当時はやったサイケ調の色合いです。しかし、このアルバムの音がサイケであるとは到底言えません。まあ、ジャケットはあまり関係ないんでしょうね。

 この作品は昔から随分聴いてきました。ジャズのアルバムでは最も多く聴いたレコードの一つです。初めて聴いたのは、かれこれ30年くらい前のことでしょうか。当時はジャズをほとんど聴いていませんでしたが、ロック・マガジンで推薦されていたので聴いてみました。結果、このアルバムは結構ツボにはまりました。今でも折に触れて聴くことがあります。

 一部にはネネ・チェリーのお父さんと紹介した方が通りがよいドン・チェリーさんです。彼はオーネット・コールマンのアルバムでデビューし、その後、数々のジャズ・ジャイアントと共演したトランペットやコルネットを奏でる人です。一般的にはフリー・ジャズのミュージシャンと言われます。

 ドンはオクラホマ出身のアメリカ人ですが、70年代にはスウェーデンに移住し、亡くなるまでヨーロッパを中心に活動しました。このアルバムはヨーロッパに移住する前ではありますが、ベルリン音楽祭のために渡欧したドンがヨーロッパのミュージシャンと共演した作品です。

 アメリカ人はドンの他にはギターのソニー・シャーロックのみで、あとはヨーロッパ人。有名な人ではトロンボーンのアルバート・マンゲルスドルフ、ピアノのヨアヒム・キューンですか。全部で9人の賑やかな演奏が繰り広げられます。

 フリージャズらしく、最初から最後まで一つながりの構成ですが、いくつか副題がつけられていますので、組曲と捉えることも可能です。冒頭は「赤ちゃんの息」ということで、笛を二本咥えたチェリーさんのソロから始まります。何とも無邪気な音で、確かに赤ん坊の声のようにも感じます。

 その後の展開で、目立つのはインドネシアのガムラン楽器です。複雑な音の響きが何とも清々しいガムランのパーカッションの響きが耳を奪います。チェリーさん始め、何人かがこれを叩いているようで、似非民族音楽と呼ばれることもあるのはこの楽器のせいでしょう。単にこのいい音を面白がっているだけなのに余計な批評をする人がいるものです。

 フリージャズとは言いながら、終わりの方の「スクリーミングJ」などはブルースそのものです。ヨアヒム・キューンのピアノとジャック・トロのドラムが冴えわたり、そこに天駆けるドンのコルネットが絡む。下世話な感覚満載で、胸が熱くなりますよ。かっこいいです。

 フリージャズと言いますと、名前はフリーですが、一定の様式みたいなものに囚われる傾向が強い中で、この自由闊達さは見事なものです。民族音楽もブルースも、カーニバル風な音楽もすべての素材を自由自在に操っています。無茶苦茶かっこいいです。

 私はフランク・ザッパの様々な音楽を思い出しました。音楽に向かう姿勢に相通じるものがあるようです。名盤ですよ。これは。

Eternal Rhythm / Don Cherry (1968 MPS)