$あれも聴きたいこれも聴きたい
 「ギヴ・ミー・チョコレート!」は敗戦日本の屈辱とアメリカへの鬱屈した感情を表すフレーズです。第二次世界大戦の敗戦国は何も日本だけに限りません。イタリアも当然その一つで、彼らもやはりアメリカのチョコレートには複雑な感情をもっているということです。

 PFMによる本作品のタイトル「チョコレート・キングス」とはアメリカを皮肉ったものです。見開きジャケットに描かれている絵は一つながりになっていて、チョコレートが食べられ、最後は包装紙が丸めて捨てられるというシークエンスになっています。

 PFMの世界進出は、英国や日本では大成功を収めましたが、ツアーまで行ったものの、残念ながら米国市場を席巻するには至りませんでした。そこで彼らは米国市場制覇を目指して、全編自前の英語詞のアルバムを制作しました。それがこの作品です。

 メンバーには、新たに米国からの帰国子女だったベルナルド・ランゼッティを迎え、ネイティブ・イングリッシュで歌うことを選びました。もともと演奏力の高いバンドでしたが、これで元のメンバーはより演奏に専念することができるようになりました。

 米国ツアーはイタリアからのバンドということで、そこそこ評判になったようですが、残念ながらレコードのセールスは今一つ伸び悩みました。そもそも当時の米国は一部のバンドを除いてプログレッシブ・ロックに冷淡でしたから無理もありません。

 サウンドは、がらりと変わり、プログレはプログレでも、クラシカル・ロマン派からジャズ・ロック派に転向したように感じます。もちろん同じ人達ですから、よく聴けば共通する要素も色濃いわけですが、少なくとも第一印象は大きく変わりました。

 ボーカルのランゼッティはアクア・フラレージというバンドからの参入です。よく指摘されることですが、彼の声は元ジェネシスのピーター・ガブリエルとよく似ています。歌い方もそっくりです。この点も前作までと大きく印象を異にする所以なのだろうと思います。

 PFMはもともと超絶技巧派としても知られていましたが、ここではその魅力が全開です。インプロビゼーションの比重が大きく、速弾きの嵐です。アコースティックな「ハーレクイン」などの楽曲もありますが、基本的には全員が競ってバリバリの演奏を聴かせます。

 スリリングな演奏は素晴らしく、本作品をPFMの最高傑作に推す声も大きいです。マハヴィシュヌ・オーケストラなどの影響も指摘されている通り、ジャズ・ロックの王道を歩むサウンドです。超絶技巧あってこそ可能となった方向性でしょう。

 一方で、前作に見られたようなイタリア・ローカルな世界観が薄れてしまった気がします。あまりよろしくないこととは知りながら、どうしてもイタリア・エスニックなところを求めてしまいます。そうなるとどうしても前作に軍配を上げたくなります。

 PFMはこのアルバムをイタリアで発表した後、日本で発売する前に、本作品と同じ6人組で初めての来日公演を行いました。何でも鬼気迫るすさまじい音の洪水だったようで、「幻の映像」を期待していた方々は面食らいながらも大いに盛り上がった様子です。

Chocolate Kings / Premiata Forneria Marconi (1976 Manticore)

*2013年8月13日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. From Under
02. Harlequin
03. Chocolate Kings
04. Out Of The Roundabout
05. Paper Charms

Personnel:
Franz Di Cioccio : drums, percussion, chorus
Patrick Dijvas : ripper bass
Franco Mussida : guitar, chorus
Mauro Pagani : woodwinds, violin
Flavio Premoli : keyboards, chorus
Bernado Lanzetti : vocal