$あれも聴きたいこれも聴きたい 変な言い方ですが、オルタナティブのメインストリームという感じがする作品です。メインストリームに対するオルタナティブの中のメインストリーム。同じメインストリームながら正反対のメインストリーム。

 理屈っぽくなりました。すいません。また、TV・オン・ザ・レイディオの音楽を表現する際によく使われる言葉はエクレクティック、すなわち折衷主義です。いろんな音楽の要素をごちゃ混ぜにしたサウンドということですね。

 しかし、考えてみれば折衷主義はロックの本質でもありますし、特にハウス以降の音楽シーンはその傾向が顕著です。それを考えると、彼らの音楽はまさに今の主流ではないかなという考えを強くいたします。

 変な名前のバンドですが、彼らはニューヨークのブルックリンで生まれたアヴァンギャルドなロック・バンドです。この作品は彼らの3枚目のアルバムで、ローリング・ストーン誌で年間ベスト・アルバムに輝いた逸品です。全米チャートでもトップ10近くまで上昇しています。

 中心メンバーはヴォーカルのトゥンデ・アデビンペとプロデュースも担当するデヴィッド・シーテックの二人。特にシーテックさんは、現在の音楽シーンの重要人物として、各方面から注目を集めている人のようです。

 この作品以前の彼らの音楽をさほど聴いたことがないのですが、よりアヴァンギャルドだったということで、この比較的ポップな作品のレビューには混乱した面持ちが感じられるものが多い気がします。

 サウンドはもちろん折衷主義的なんですが、私はこの作品を聴いて、アメリカのカレッジ・サーキットを中心とした先鋭的なサウンドの伝統を感じました。古くはフィーリーズやモダン・ラヴァーズ、そして大御所REMや、クラップ・ユア・ハンド・セイヤーとかそういう流れ。ベックも入れてもいいかもしれません。

 要するに知性を感じる音です。アメリカの音楽シーンには、英国のようなプログレの歴史が乏しく、比較的ショウビズ的なプロ意識が高い人たちが主流です。しかし、その中で脈々と知的な音楽の鉱脈が息づいています。彼らなんかまさにそういう匂いがします。

 ただ、TV・オン・ザ・レイディオの場合には黒人メンバーが多いこともあって、リズムに艶があります。そこが少し違うところかなと思います。パーカッションが多用されていて、リズムがはねています。

 決定的に新しいサウンドというわけではありませんが、知的に洗練されながらも肉体も見失わない素敵なサウンドだなあと思いました。 

Dear Science / TV On The Radio (2008 4AD)