$あれも聴きたいこれも聴きたい 何の変哲もないジャケットですが、ジャケット裏を見ますと、トッド・ラングレンの足はレコード盤が枷になっていて、この場を動けないようになっています。原題通り、アーティストは拷問を受けている模様です。

 トッド・ラングレンのベアズヴィル・レーベル最後の作品がこのアルバムです。義務を果たすためにアルバムを作ったという噂が無きにしもあらず。今回も恒例によってワンマン・レコーディングがなされています。ユートピア・サウンド・スタジオ完成以来、スタジオに閉じこもっている感じです。

 今回の作品はポップ色が全開です。「サムシング/エニシング」の頃の作風と本質的には変わっていないわけですが、時代を反映してモダン・ポップな響きになってきました。当時、英国に出てきたポスト・ニュー・ウェイブの少しひねくれたポップ路線ですね。

 ライナーを書いているサエキけんぞうさんの分析によれば、トッドは「もっとも英国ポップを愛した米国アーティスト」ということになります。当時のアメリカのヒット曲を調べてみると、ヒューマン・リーグの「愛の残り火」やソフト・セルの「汚れなき愛」などが1位になっていて、第二次ブリティッシュ・インヴェイジョン現象が始まった頃だということが分かります。

 そこに元祖ひねくれポップのトッドが、俺を忘れてもらっちゃ困るとばかりに制作したのがこのアルバムだと解釈してもいいかもしれませんね。

 アルバムはトッドの他のアルバムの例に漏れず、A面とB面が比較的くっきりと分かれています。A面は従来型の美しいメロディーのポップな曲が並んでいます。「ハイダウェイ」から「インフルエンザ」への流れはとても美しいです。

 B面が少しひねってあります。最初はスモール・フェイセスのカバー「ブリキの兵隊」です。トイ・ソルジャー、イギリスの趣味の王道ですね。とてもブリティッシュな曲をもってB面が幕を明けます。続く曲は、モンティー・パイソン風の面白ボーカル曲「高速道路の皇帝」です。いちびったボーカルで完全に遊んでいます。

 続くのが、今やトッドの最も有名な曲になっている「一日中ドラムをたたけ」です。何とスカです。スカは、当時、英国ではブームでしたが、アメリカではさほどではなかったと記憶します。♪仕事なんてしたくない。一日中ドラムをたたいていたいんだ♪と繰り返されるこの曲は、シングル・カットはされていますが、さほど売れたわけではなく、むしろ、その後、米国のテレビ番組やラジオのテーマとして何度も使われた結果、スタンダードになりました。ノヴェルティー・ソングですね。いい曲です。

 続く曲「ドライブ」と「チャント」もシンセ全開で英国風なサウンドに乗せてトッド節がさく裂します。何とも力の抜けた遊び心に満ちたサウンドです。

 チャート・アクションはさほどではありませんでしたが、トッドのアルバムの中では売れたほうです。やっぱりポップが似合う人です。どうしようもなくポップな曲を、素人目には分からない隠し味満載のアレンジで聴かせるのがトッドの真骨頂でしょう。 

The Ever Popular Tortured Artist Effect / Todd Rundgren (1982 Bearsville)