$あれも聴きたいこれも聴きたい 二千年問題とは久しく聞かなかった言葉です。もはや忘却の彼方です。しかし、あの時は本当に大騒ぎでした。地球が終わるかもしれないとまで囃し立てる人がいましたね。何でそんなバンド名なんだろうと思いましたが、この人たちは1999年結成なんですね。合点がいきました。

 にせんねんもんだいは、女性3人組です。高田正子さんのギター、在川百合さんのベース、姫野さやかさんのドラムスによるインストゥルメンタル・バンドです。キャリアも長いですが、私はこのアルバムで初めて知りました。とてもかっこいい音楽です。

 どういう音楽かというと、ギターの短いループとドラムとベースによる高速ミニマル・リズムが延々と続き、その上にギターのサウンドが舞うというもの。メロディーやコードがあるわけでもなく、起承転結などはなから問題にせず、ただひたすら繰り返されていきます。

 こういう発想自体は、たとえば古くはクラウト・ロック勢、時代が下ればテクノ勢などにもありますし、大昔にはファンクの人たちにも同じような趣向がありました。私は70年代ラテン・ファンクのウォー「ジプシー・マン」を思い出しました。

 しかし、先達と決定的に違うのは、リズムがとても素っ気ないところです。リズム主体の先達の場合、リズムに愛を注いでいて、単調な繰り返しであっても熱いところがありました。ところが、彼女たちの場合は、とてもとてもクールです。

 私はミニマルな高速ビートを聴いていて昆虫を思い浮かべました。蚊の羽音、コガネムシの歩く姿、クツワムシの鳴き声だとか。無機的というのとは違います。虫は当然みんな有機体ですし。何とも魅力的な素っ気なさです。

 本作品は、「もっとハウス・ミュージック的なわかりやすいものにしたかった」結果ですし、「あらかじめ録音したものを流すという行為にすごく抵抗があった」けれどもそれを克服してできた音楽だということです。「ループをどう捉えるかがすごく難し」く、「人力でやっているぶん、すぐ思うようにはいかないから、そのたびにアプローチを考えて、やっとここまでこれた」アルバムです。

 彼女たちの人力ライブも評判が高いです。ビデオを見るとかっこいいことこの上ありません。外タレともたくさん共演していますし、欧米でのツアーも人気を博しています。ミニマルなビートには国境はありません。軽々とグローバリゼーションです。

 この作品は、家で大音量で聴いても十分楽しいですが、街中ヘッドフォンも面白いです。電車の中、雑踏の中、そんな街中の風景にぴったりです。自分が虫になったように感じます。虫も街中では落ち着かないですし。

 張りつめた緊張感が漂うものの、どこか笑ってしまうところもあって、心が騒ぎます。やっぱり虫。虫の音楽です。このバンドは要注目。凄いバンドです。

(引用はCDジャーナル2013年7月号より)

N / Nisennennmondai (2013 美人)