$あれも聴きたいこれも聴きたい 一つ自慢したいことがあります。先日、このアルバムを家で聴いていた時、ちょうど「ルル組曲」の30分強の間、雷鳴がとどろいていました。普通ならば煩くてしょうがないものですが、「ルル組曲」にはあまりにぴったりで感動もいや増しに増したのでした。特に第五曲の時には落雷があったのではと思わせる音でした。

 さて、このCDは「ザ・デッカ・サウンド」というボックス・セットの一枚で、三枚のLPから編集されたものです。作曲家が新ウィーン楽派の三人であること、指揮者がクリストフ・フォン・ドホナーニであることから収録時間を埋めるためにまとめられたものと思います。良心的です。

 そのため、ジャケットは1981年発売のシェーンベルクの「期待」のものです。多少手が加えられています。元は「6つの歌」が収められていて、それが表記されていましたが、それを消して「ルル組曲」と書かれています。

 ベルクの「ルル組曲」は1974年の発表。カップリングはリヒャルト・シュトラウスの「サロメ」でした。そちらはカットされています。ここまでが、ドホナーニ指揮のウィーン・フィルで、ソプラノはドイツの歌姫アニャ・シリヤです。7年の間隔はありますが、同じ布陣です。

 最後に1992年のウェーベルン「夏風の中で」が入って新ウィーン楽派の開祖3人が揃いました。こちらは指揮こそドホナーニですが、楽団はクリーブランド管弦楽団です。とても良心的なコンピレーションです。

 冒頭に記したように、今日は「ルル組曲」を語りたいです。雷もさることながら、先日、坂本教授監修のスコラ第12巻「20世紀の音楽1」を聴いて、アルバン・ベルクのこの曲に耳を奪われてしまい、家の中を探したところ見つけたというわけです。運命を感じませんか。

 十二音音楽は、シェーンベルクを始祖とし、高弟ベルク、俊英ウェーベルンが担い手となった20世紀の新しい音楽だということです。何がどうなのかは今一つよく分からないものの、私としては、元も子もない言い方ですが、とてもホラー映画的な音楽だと理解しています。調性が破られているということでしょうか。

 ベルクの「ルル」は彼の2作目のオペラで、お話は魔性の女ルルが次々と男を破滅させ、最後は切り裂きジャックに惨殺されるという凄いものです。同性愛の伯爵令嬢までがルルに魅せられます。元ネタはあるもののベルク自身が台本を書いたそうです。

 このアルバムに収められているのは、その中から5曲を選んだ通称「ルル組曲」と呼ばれているもので、ボーカルはあまり入っていません。とはいえ、音楽だけでもなんだか凄惨な話であることはよく分かります。雷が似合う音楽です。

 サウンドはとても緻密に構成されています。後期ロマン派的な頽廃した熟熟のロマンが下敷きになって、それをホラー映画的な不条理が埋めていく、そんな極みな音楽がここにあります。これは素晴らしいです。

 ドイツの指揮者クリストフ・フォン・ドホナーニとソプラノのアニャ・シリヤは夫婦なんですね。道理で長い付き合いなわけです。癖がないけど、鬼気迫る、そんな演奏はなかなか聴きごたえがあります。

 ところで、調べてみると日本アルバン・ベルク協会なんていうものがあるんですね。日本でもベルクは高い人気を誇っているんだということを初めて知りました。

Schoenberg : Erwartung, Berg : Lulu Suite / Christoph Von Dohnanyi, Wiener Philharmoniker, Anja Silja (1974, 1981 Decca)