$あれも聴きたいこれも聴きたい 1984年頃にはヘビメタに偏見を持っていたので、天才イングヴェイ・マルムスティーンのこともほとんど知りませんでした。思えばもったいないことをしたものです。

 イングヴェイは「スウェーデンが生んだ『ギターの革命児』」です。彼の驚異の速弾きギターはロックにおけるギターの歴史を大きく変えました。その業績はジミ・ヘンドリックス、エディー・ヴァン・ヘイレンに並び称されます。

 私などの世代ではギタリストと言えば、ジミは別格ですが、三大ギタリストと称されるジミー・ペイジ、ジェフ・ベック、エリック・クラプトンを差し置いて語ることはできません。しかし、時代は変わりました。

 しかしまあそれも80年代の話。超現在では、ギター・ヒーローは過去のものになってしまい、そんな形でギタリストを語ることすらないのかもしれませんね。その意味ではイングヴェイの姿は懐かしくも思われます。

 イングヴェイのギターは、本人曰く「俺はヴァイオリンのフレーズをギターでプレイしようと思った」ということで、クラシックの旋律の香りがぷんぷんしています。「俺はほかのギタリストとは音の並べ方が違うんだ」とも語っています。

 「クラシックのメロディーとハード・ロックのサウンドの融合」を目指した彼は、必然的に速弾きに手を染めることになりました。基本的にはリズム主体のロック・ギターにはさほど速弾きは要求されませんが、メロディーを極めようとすると驚異的な速弾きが必要になるということなのでしょう。

 本作品はアルカトラズで活躍していた彼の初のソロ・アルバムです。何でもこういうサウンドが大好きな日本のレコード会社がソロ発表を唆したとか。アルバムのジャケ裏には、ナベプロへの謝辞がありますから、確かにそうなんでしょう。日本のハートをわしづかみです。

 まだアルカトラズのメンバーでもあったイングヴェイですから、ソロ作は気を遣って全部インストで行く予定でした。しかし、制作途中でアルカトラズ脱退を決意したイングヴェイは、ボーカリストを連れてきて、全8曲中2曲にボーカルが入りました。私としては、ボーカルはない方がよかったかなと思いますが、どうでしょう。

 冒頭のインスト2曲、「ブラック・スター」と「ファー・ビヨンド・ザ・サン」はイングヴェイの代表作として名高く、彼は死ぬまでこの曲をプレイし続けると言っています。確かにこの2曲は彼のやりたかったことの全てが込められているように思います。

 イングヴェイに最も影響を与えたのは、ロマン派の作曲家にして超絶技巧の持ち主パガニーニです。そのことから分かるように、彼の音楽はロマン派的な旋律に満ち溢れています。とても端正なヘビー・メタル・サウンドがネオクラシカルに演奏されるという音楽の形をここまで徹底した人はいそうでいなかった。

 一歩間違うとだらしないイージー・リスニングに陥りそうな路線ですが、そこは新分野の開拓者としての気合が優っていて、見事なサウンドを作り上げたのだと思います。何百というフォロワーを生んだ迫力に満ちています。

 暑くてしょうがない日に、ひんやりした風を運んでくれる気持ちの良い作品です。

(引用は広瀬和生さんのライナーノーツから)

Yngwie J. Malmsteen's Rising Force / Yngwie J. Malmsteen (1984 Polydor)