$あれも聴きたいこれも聴きたい 渋いアルバムです。この時、久保田麻琴さんはまだ20代だったはず。どうしてこの時代の若者は渋いのでしょうね。中学生の頃に感じた大人感は、実年齢ではとうにこの頃の久保田さんの年齢を越えることになっても、いつまでも変わりません。

 この作品は久保田麻琴さんが中心となった夕焼け楽団のセカンド・アルバムです。久保田さんは大学生の頃にソロ・デビューを果たした上、伝説のバンド「裸のラリーズ」にも参加するという凄い経歴の持ち主です。その後、アメリカに遊学してから帰国後に始めたのがこの夕焼け楽団です。

 彼らの音楽の特徴は、狭い意味のロックにとらわれず、ハワイから沖縄、深アメリカといったワールド・ミュージック的な日本語ポップスを追及している点にあります。自由闊達で懐の深い地球を感じる音楽です。

 この2作目は、題名から分かる通り、ディキシーランド、すなわちアメリカ南部、特にニュー・オーリンズからルイジアナ、テキサスへと連なるあたりの音楽を取り入れたサウンドになっています。渋い渋い。

 南部アメリカの奇人ドクター・ジョンに師事したこともある白人ピアニストのロニー・バロンとの出会いが大きいことでしょう。ロニーは全面的にこのアルバムに参加していて、実に味わい深いキーボードのプレイを聴かせてくれていて、泥臭いファンキーを見事に体現しています。

 夕焼け楽団は、ギターが3人とベースの4人組なので、自給自足というよりもゲストの参加を前提としたオープンな集団です。今回は、前述のロニーの他には、大半の曲でドラムを叩いているトラヴィス・フラートンが目立ちます。彼は、ビリー・ジョエルやグラハム・ナッシュなどのサンフランシスコのミュージシャンと共演していたドラマーです。ぴんとした乾いたドラムが素敵です。

 3人のギターも渋い。特に藤田さんの軽いタッチのスライド・ギターはカッコいいと思います。多くの曲は久保田さんの作曲ですが、名曲とされる「星くず」はこの藤田さんの曲です。井上さんの丁寧なギターもなかなか素敵なもので、とにかく3人で楽しそうなところがいいです。肩ひじ張らないいぶし銀。若いんですけどね。

 さて、この作品にはゲスト・ボーカルとしてサンディー・ホーンさんが初めて参加しています。彼女は後のフラのサンディー、久保田麻琴夫人ですね。微笑ましい挿話が似合う小粋な作品だと思います。

 ところで、ジャケットのイラストは八木康夫さんの手になります。八木さんは日本のザッパ・ファンの代表格として有名な方ですが、こんな仕事もされていたんですね。不明に恥じ入るばかりです。

ディキシー・フィーバー / 久保田麻琴と夕焼け楽団 (1977 Show Boat)