$あれも聴きたいこれも聴きたい
 日本も社会的な格差が広がってきたと言われますが、日本には貴族がいませんから、イギリスのような階級社会のことは実感としてよく分かりません。ですから、ミドル・クラスという言葉をニュアンスまで含めて理解することはなかなかに難しいことです。

 ただでさえ、マークEスミスの描き出す歌詞の世界は英国人ネイティブでなければ分からない難解な世界なのに、一般的な概念でありながら、ディープ英国固有の意味合いがあるタイトルを持ち出されてはお手上げです。音の響きの気持ちの良さで我慢するしかなさそうです。

 この作品はザ・フォールの1994年の作品です。前作が彼らにしてはヒットしましたが、この作品は従来通りあまり売れませんでした。どこがそれだけのセールスの差になって出てくるのか、私のような大ファンには分かりづらい話です。

 プロデューサーやレコード会社は前作と同じですし、ジャケットのイラストも同じパスカルです。パスカルのロールシャッハ的な感性がここでも全開です。メンバーは懐かしいカール・バーンズが復帰したほかは前作から異動がありません。

 前作から変わったとすれば、全体にまた音がインディーズっぽく生々しい感じになってきたことでしょうか。より武骨なアレンジになっていて、フォール節を際立たせています。そうなると強固なファン以外にはややとっつきにくいのかもしれませんね。

 ややこしいことにCDには曲順が誤って記載されています。イギリスのアングラ・プログレの立役者ヘンリー・カウの「ウォー」のカバー曲が、私の持っているCDでは13曲目と記されているものの、実際には7曲目に収録されているんです。

 このおかげでどれだけ戸惑ったことか計り知れませんから、罪作りな話なわけですが、この誤表記バージョンは数も少ないようで、今後の展開次第ではお宝になりますでしょうか。ついでに、作曲のクレジットも先行発売されたシングルとの間では齟齬があり、大変面倒です。

 ファンの間でもさほど人気の高いアルバムではありませんが、「M5#1」などは名曲として名高いです。イギリスの高速道路はMに番号をつけて呼ぶことになっていて、M5は英国南部の道路です。その道路を題材にした何ということのない歌詞が随分高く評価されています。

 それから、「ヘイ!スチューデント」という曲は、英国の超有名DJのジョン・ピールが選ぶ94年の50曲で見事2位を獲得しています。もともとジョン・ピールはザ・フォールのことが大好きですから、これは依怙贔屓でしょうね。

 ジョン・ピールは、「シンボル・オブ・モードガン」という曲の中で、ギターのクレイグ・スカンロンと電話でサッカーのことを話しています。仲が良いことこの上ありません。ザ・フォールの英国での評価にあたって、ジョン・ピールの果たした役割はとても大きいものがあります。

 この頃のフォールは順風満帆で、中毒性のあるリフを主体とした曲づくりにはますます磨きがかかり、出すアルバムはすべて傑作です。聴けば聴くほど病み付きになります。ただ、あまり平穏なのもこのバンドには似合いません。波乱の予感が…。

Edited on 2020/10/24

Middle Class Revolt / The Fall (1994 Permanent)