$あれも聴きたいこれも聴きたい デビュー作には、「吸血鬼大集合」なんていうポップな邦題をつけられていましたが、ヴァンパイア・ウィークエンドは、21世紀のアメリカを代表する若手バンドです。

 これは彼らの3作目、前作に引き続いて見事に全米チャートを制しました。デビュー時からずっとインディーズに所属しているアーティストとしては初の快挙だそうです。

 彼らはコロンビア大学在学中に知り合ったという4人組です。アメリカのインディーズの一つの型ですね。全員知性にあふれる白人ですが、ユダヤ系だったりイラン系だったりと人種的にはさまざまです。それがどう影響しているのかはよく分からないものの、見逃せないポイントではあります。

 彼らはこれまで欧米的なサウンドを解体してきたと言われますが、この作品ではアメリカ的なポップ・ミュージックに真正面から取り組みました。インタビューによれば、「僕らはアメリカン・ロック・ミュージックってつまらないものだとずっと思っていた」けれども、「つまらなかったものを自分たちの発想で変えたかった」ということだそうです。

 そういうことですから、オーソドックスなアメリカのポップなロックという佇まいがします。ロック全盛期を経験している身としては、最初に聴いた時には、聴きどころがどこにあるのか少し分かりにくい気がしました。ジャック・ジョンソンを初めて聴いた時の感じに似ています。

 再びインタビューに戻ると、「ポップ・ミュージックの起源をビートルズとしたら」、「文学の発祥をギリシャの詩歌みたいなところで置き去りに」するようなものなので、「ヒップホップという、よりモダンな音楽から現在のポップ・ミュージックが始まっているんだって、頭を切り替えているんだ」そうです。

 なるほどなるほど。強引に自分にあてはめますと、ロックの誕生をチャック・ベリーに求めるのではなくビートルズにしてみた私たちと、一まわり上のロカビリー世代の意思疎通問題のようなもの、立っている地平が違うということです。

 若い人たちにとってはロックはルーツ音楽の一つなんですね。もはや現在進行形じゃない。素材に過ぎないので、正面から自在に使ってみることもあるけれども、決してその系列に置いてみることが適当であるわけではない。そんな世代問題を考えさせられました。

 そう思って肩の力を抜いて聴いてみると、いろいろと発見することが多いです。ぽつんぽつんと音を重ねていく重ね方や、明らかにヒップホップというかハウス以降の電子楽器を経たリズムの感覚など、まさに新世代のそれです。とにかく新鮮。

 ジャケットは霧に浮かぶマンハッタンです。モノクロの写真が見事に彼らのサウンドを物語っています。サウンドの構造が美しいですし、もたらされる空気がやるせない。これはなかなかに素晴らしいアルバムな気がしてきました。

 少しダーティー・プロジェクターズを思い出しました。切磋琢磨してシーンをさらに盛り上げてほしいものです。

(引用はCDジャーナル13年6月号です)。

Modern Vampires Of The City / Vampire Weekend (2013 XL Recordings)