$あれも聴きたいこれも聴きたい 韓流はブームを越えてすっかり定着したようです。何はともあれ隣国の文化が花開いたおかげで、私たちの文化生活もずいぶん豊かになりました。大変結構なことですね。

 チョン・キョンファさんは、はるか昔に韓国の実力を世界に知らしめた天才バイオリニストです。生まれは1948年、まだ朝鮮戦争が始まる前です。わずか2歳にして完璧に歌を歌い、小学校入学前には2回レッスンを受けただけでバイオリンを弾きこなしたという天才伝説の人です。

 10代で国際的にも評判を高め、1970年にはロンドンのコンサートで大絶賛を浴びて、一躍トップ・スターとなった彼女は、デッカと専属契約を結んで、数々のレコーディングを残しました。この作品はそんな彼女の初期の名盤です。

 共演しているのはルドルフ・ケンプ指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団です。録音はロンドンのキングスウェイ・ホールでデッカの総力を挙げて行われました。1972年5月のことです。何テイクか録られたのでしょうか。録音は6日間にわたっています。キョンファ24歳。若いですね。

 曲は、マックス・ブルッフのバイオリン協奏曲第1番ト短調作品26番とスコットランド幻想曲作品46番の2曲です。後者は原題が「バイオリンとオーケストラとハープのための幻想曲『スコットランド幻想曲』」だそうですが、ハープの活躍はさほどでもないので、ほとんどバイオリン協奏曲として捉えられているようです。

 このCDにはメンデルスゾーンのバイオリン協奏曲ホ短調が同梱されています。ブルッフさんはメンデルスゾーンの強い影響下にありますから、とても自然なボーナスになっています。どちらもバイオリンが歌いまくるロマンな曲です。

 バイオリンの音はシンセサイザーの発振音に似ていなくもないですね。もちろんより豊かな音色なわけですが、リニアに上がり下がりするところがそっくりです。プログレ勢の中にはバイオリン的な持ち味の人も多いのだなあということを再認識した次第です。

 ブルッフさんの曲は、甘く感傷的なメロディー・ラインの美しさが際立っています。甘い甘い。流麗、華麗、美麗、秀麗、鮮麗、綺麗な旋律の数々がこれでもかこれでもかと出てまいります。バイオリニストにしてみれば、最初から最後までが見せ場です。

 若々しくて瑞々しく、かつストイックに鳴り響くバイオリンの音色に聴き入ってしまいますが、わき役に徹した時のオーケストラというのもいいものですね。若い東洋人を盛り立てるケンプ指揮のオーケストラはなかなか素晴らしいです。

 しかし、このジャケットはどうでしょう。最初、私は真ん中あたりの髪の毛をモミアゲかと思ってしまいました。デザインが妙です。

 たまにはこういう甘い甘いバイオリンもいいものです。ただ、ここまで凄い演奏だからなのでしょうね。下手に媚びるようなバイオリンでこの曲は辛そうです。

Bruch : Violin Concerto, Scottish Fantasia / Kyung-Wha Chung, Rudolf Kempe, Royal Philharmonic Orchestra (1972 Decca)