$あれも聴きたいこれも聴きたい まずはミュージック・ビデオを見てください。カッコいいですね。インドのアーティストだと分かりましたか?踊りの一部がボリウッドのダンス・マスターっぽいところと、オートリキシャがちらっと出てくる他はインドの匂いはほとんどしません。

 歌っているのはプリヤンカ・チョプラ、何度かブログでご紹介した私が一番好きなボリウッド女優です。彼女はミス・ワールドに輝いた経歴をもつトップ女優です。演技力も確かですし、インド人らしい顔立ちの美人なので、とても高い人気を誇っています。

 インド映画と言えば歌と踊りが定番です。それはその通りで、俳優さんはとにかく踊れないといけない。インドの芸能ショーでは、トップ俳優さんたちがライブで踊りますから大変です。そのために体を作る必要があり、男女を問わずシェイプ・アップに余念がありません。

 しかし、歌はボリウッド創生期を別にして、ほぼ全てをプレイバック・シンガーと呼ばれるプロフェッショナルな歌手が歌っています。インド音楽の伝統が根深く息づいているために、下手な歌を許容する空気がないことがその大きな理由でしょう。歌を大事にしているんですね。プレイバック・シンガーのトップ・クラスは俳優と並ぶスーパー・スターとして扱われます。

 そこにこのシングルです。トップ女優が自ら歌うというインドの芸能史上の画期となる出来事が起こったわけです。凄いことです。プリヤンカの勇気に拍手を送りたいと思います。

 プロダクションが凄いです。プロデューサーのレッドワン、共演のブラック・アイド・ピーズのウィル・アイ・アム、さらに共作者にエスター・ディーン、ブライアン・ケネディとアメリカの超一流どころが並んでいます。彼らの名前を知らなくても、彼らの係わったアーティストを挙げると誰でも凄いと思うような人たちばかりです。ワン・ダイレクション、レディー・ガガ、ビヨンセ、バックストリート・ボーイズ...。

 曲は現代的な卒のないダンス・チューンです。非の打ち所がありません。さすが豪華なプロダクション陣です。歌詞は軍医だった父親についてインド各地を転々として育った彼女がどこでもない「私の町」にみんなを迎えるというポジティブなもので、これまたいい感じです。歌もいいですよ。聴くまで不安でしたが、まったく杞憂でした。かっこいい。

 インドでは発売して1週間で13万枚を売ってチャートを制し、トリプル・プラチナ・アルバムに認定されました。9億人で13万枚と少ないようですが、映画音楽以外のポピュラー・ソングの市場は小さいですから、これは快挙です。

 評論家の受けは両様あったようですね。インドの評論家の多くはこういう音楽に慣れていないですから仕方がないでしょう。ただ、彼女のアクセントに文句をつける人が多いのが面白いです。インド人らしくないからでしょうかね。

 残念ながらアメリカではさっぱり売れませんでしたが、第二弾シングル、そして待望のアルバムが予定されているようですから、彼女の大いなる飛躍に期待しましょう。先週の米国映画ボックス・オフィス・トップ10にはインド映画が入っていましたし。

 がんばれ、プリヤンカ!

In My City / Priyanka Chopra feat. Will.i.am (2012 Interscope)