$あれも聴きたいこれも聴きたい 驚くべきことにこのバンドは76年にマンチェスターで結成されました。私のブログの大スター、ザ・フォールと同じです。同期同郷なのに音楽は随分かけ離れるものですね。

 サッド・カフェは70年代終わり頃にイギリスでちょっと人気があったバンドです。時は、パンクからニュー・ウェイブの時代に、堂々とそうでない新人が現れたことに戸惑いを感じたものでした。いわゆるオールド・ウェーブです。

 この作品は彼らのデビュー・アルバムです。紙ジャケ再発時に一枚買おうと思い立ったのですが、昔聴いたアルバムがどれだか分からなくなったのでとりあえずデビュー・アルバムを買いました。これじゃなかったなと買ってから思いました。なんかそんな事情にふさわしいバンドです。

 市川哲史さんという音楽評論家の方のライナーノーツが凄く面白いです。サッド・カフェは、「『残念なバンド』として一部の好事家の記憶に留まって」いるバンドです。そして、このアルバムは「こ洒落たアートワークとは裏腹の、シンフォニック全開の『隙あらばプログレ』的なモダーン・ミュージックもどきサウンド」です。

 「隙あらばプログレ」という表現を大いに気に入りました。まったくその通りです。シンガーのポール・ヤングは「あそこまで癖はないけどミック・ジャガー的」。これも言いえて妙です。ちなみにポールは「エヴリ・タイム・ゴー・アウェイ」のポール・ヤングとは違います。後にマイク&ザ・メカニックになる人です。

 曲の紹介も面白くて、「戦争神経症」は「今や死語の『ディスコテック』の記憶が甦る」し、「壁の影」は「10ccなのに野暮ったい」と来ます。B面冒頭のメドレーは「アリス・クーパーがドゥービーに乗って疾走してるよう」ですし、「不死の人」は「ザ・フー、つげ義春を歌う」と暴走気味です。

 引用だけみると、馬鹿にしているように見えるかもしれませんが、全体に愛にあふれていて素晴らしいライナーノーツだと思います。こういう愛が似合うバンドなんですね。サッド・カフェの魅力が市川さんの腕に火をつけたんでしょう。

 デビュー盤ですから、彼らの持つありったけのスタイルをつぎ込んだ百花繚乱状態です。まとまりがつかない、いやつけるつもりもない豊潤な味わいです。ただ、パンクとニュー・ウェイブには全く接近しません。あくまでオールド・ウェイブ。そこが面白いです。

 彼らは頻繁にメンバーを入れ替えたあげく、90年に解散しますが、後に何度か復活、現在も活躍中です。あえて時代に背を向けていたわけですから、今でも当時とさほど変わらない受け止め方ができます。永遠のB級バンドです。

 ジャケット、大丈夫でしょうか。

Fanx Ta-Ra / Sad Cafe (1977 RCA)