$あれも聴きたいこれも聴きたい これほどスキャンしていても空しいジャケットはありません。縮小するから何にも分からないですね。ジャケットはイギリスのポップ・アートの巨匠リチャード・ハミルトンの手になります。アートだったわけですね。

 ビートルズの9枚目だか10枚目だかのアルバムは通称「ホワイト・アルバム」です。真っ白ですから。次から次へと湧き出でるアイデアは到底1枚では収まりきらず、ついに初の2枚組となって登場しました。

 しかも収録時間が長い。それまでのビートルズのアルバムは収録時間が比較的短かったので、それとは好対照をなしています。ありとあらゆる楽曲を詰め込んだ作品ですから、このアルバムを2枚聴き通すとかなり達成感を味わうことができます。

 今回、改めて2枚を聴き通してみて、やはり達成感を感じました。特に最後に超大物「レボリューション9」があります。ここが最後の関門となって、乗り越えた時の達成感をいや増しに増してくれます。

 中学時代には「ホワイト・アルバム」を持っている人は尊敬されていました。そして、これを聴き通すと大人への階段を一つ上ったなと思ったものです。ただ、「レボリューション9」が好きという奴は、「無理してるな」と思われていたこともまた事実。

 この作品は、ほとんど脈絡もなく、いろんな種類の曲が並んでいて、アルバムとしてのまとまりなどははなから考えられていないように思われます。ポップな曲もあれば、ヘビーな曲もありますし、ワルツもあればボードヴィルもあり、フォークもロックもカントリーもあるし、中には冗談としか思えないような曲もあります。

 アルバム制作時にはリンゴが辞めたいと言い出して休養をとったとか、オノヨーコやリンダやパティーの奥さん方まで参加したとか、ジョンやポールのソロが入っているとか、ビートルズを取り巻く状況はかまびすしいことになっていました。わさわさした状況を反映したアルバムだというのが定説です。

 しかし、アルバムとしてのまとまりはともかく、一曲一曲はより作りこまれるようになってきているので、ロック史を離れて十分楽しめる作品です。とても現代的。当時、当然のようにチャート1位を飾ったように、ポピュラリティーは全く失わずに前衛的という始末に負えない人たちですね。

 ジョンの実験作「レボリューション9」とポールの実験作「ホワイ・ドント・ウィ・ドゥ・イット・イン・ザ・ロード」を比べると、いかにもアートなジョンに対し、どこまでも音楽職人のポールの対比が際立って、とても面白いです。さらにポールにはヘビメタの元祖とまで言われる「ヘルター・スケルター」もあり、楽しそうです。

 私はジョージの出世作「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」が一番好きです。ビートルズらしくないクラプトンのギター・ソロが秀逸です。こういう異質な音が入るとアルバムのビートルズらしさが際立ちます。

 もっと外部のミュージシャンとセッションしていれば、もう少し長続きしたのかもしれませんね。
 
The Beatles / The Beatles (1968 Apple)