$あれも聴きたいこれも聴きたい 公式サイトによりますと、「いまなおロック・シーンに巨大な影響を及ぼす音の革命的冒険」です。「レコーディング・アーティストとしてスタジオ・ワークを追求し、長い時間をかけて作り上げた冒険的ロック・アート。全英チャート9週連続1位」です。

 ローリング・ストーン誌の名盤500の第三位に選ばれているほどの大名盤ということになっています。確かにビートルズ作品の中でも人気の高いアルバムです。いずれの楽曲もポピュラリティーを全く失わないのに実験性が高いという凄いアルバムです。

 そんな大名盤にケチをつけるようで心中穏やかではないのですが、私にとっては難しいアルバムです。個々の楽曲のパワーは圧倒的なものがあります。しかし、全体を通して聴くととても剣呑な感じがします。あのおとぼけ「イエロー・サブマリン」ですら、ここに入っていると禍々しく聞こえてきます。

 当時、ビートルズはジョンのキリスト発言問題やら何やらかんやらで難しい時期に差し掛かっていました。あれほど明け暮れていたツアーをしばらく休んでこのアルバム作りに専念し、ついにアルバム発表後のツアーを最後にライブ演奏をしなくなりました。そんな状態で、メンバー、特にジョンとジョージはドラッグに溺れていきます。

 そんな空気が色濃く反映されているのがこのアルバムです。剣呑さの正体はそこにあります。

 期待した皆様には申し訳ありませんが、私はドラッグなるものをやったことがありません。ですから、ドラッグによってハイになる状態というものがどういうものなのかよく分かりません。私の経験の中で比較的似ていると思われる徹夜明けの朦朧状態や酔っ払い状態を思い浮かべながら考えている点、ご容赦ください。

 そういう状態の時には、一つ一つのことは普通の時よりも妙にすっきりできたりしますが、全体をうまく構成するというような作業ができないものです。脳髄の普段使わないところが動いていて、収拾がつかなくなっているイメージです。このアルバムを聴いているとそんな感じがします。とても居心地が悪くなる時があります。

 サウンドはますます洗練されてきました。しかし、相変わらず溢れるアイデアが無造作に注ぎ込まれている風情は変わりません。凡人ならば、そんなアイデアを一つ思いついたら、少なくともアルバム1枚分はそれを追求して行こうと思えるほどの秀逸なアイデアばかり。今から思うと本当に贅沢な人たちです。

 ジョン・レノンの曲は、テープ・ループを使ったプログレな「トゥモロー・ネバー・ノウズ」を筆頭に随分やさぐれた感じがします。自分の内面に正直すぎるくらい正直なところが全開になってきました。聴いている方も向き合わずにはいられません。

 ポールはポールでいよいよ天才の本領発揮です。ますます自信をつけて、ビートルズ内のパワー・バランスにも影響がでてきたようです。ジョージのインド音楽趣味もパワー・アップしました。変わらないのはリンゴだけ。やはりビートルズには彼が必要です。

 名盤中の名盤には間違いありませんが、恐ろしいアルバムです。 

Revolver / The Beatles (1966 Parlophone)