$あれも聴きたいこれも聴きたい ニンジンや大根などの野菜類やホースなどの日用品を笛にする芸人さんを昔はよく演芸番組で見かけました。何でも楽器になるものだなあと思うと同時に、何でも吹いてみたくなる人がいるんだなあと妙に感心したものです。

 私のロスコー・ミッチェルさんの印象は、百本はあろうかという木管楽器や笛類を並べて悦に入っている彼の写真につきます。いろんな木管楽器を並べて喜んでいるんです。実際に見た彼のライブでもいろんなものを吹いていました。これは笛の芸人さんと同じでしょう。きっとホースも吹いたことがあるはずですよ。

 この作品はロスコー・ミッチェルさんが現代音楽レーベルのラブリー・ミュージックに残した作品です。まるで現代音楽のつくりになっていますので、CDを聴きながら、これは同姓同名の別人かと一瞬疑問を抱きました。

 しかし、そうではありませんでした。これはジャズ界の異端児アート・アンサンブル・オブ・シカゴのロスコー・ミッチェルその人の作品に間違いありません。

 この作品には、アルバム・タイトル通り、4つの楽曲が収録されています。その4つは相互に関係があるわけでもなく、参加ミュージシャンも録音場所も日時も全然違います。オムニバスと言えるんですが、不思議とアルバムには統一感があります。

 統一感の源泉は音色です。ロスコーの最大の功績は木管楽器の地位を高めたことだと言われます。ここで使っている木管楽器は、フルート、バスーン、アルト・サックス、クラリネット、オーボエ、ベース・サックス、コントラバス・サリュソフォンと並べるだけでもぞくぞくします。

 サリュソフォンなんて初めて聴きました。初めてついでに、トリプル・コントラバス・ヴィオルなんていう3メートルはあろうかという巨大コントラバスも使われています。両者は4曲目の「プレリュード」に使われていて、その演奏風景がブックレットに載っています。

 それをみると、コントラバスを弾いているブライアン・スミスは結構高い台の上に乗っています。巨大な躯体には二つ穴があいていて、そこにマイクが差し込まれているという何とも不思議な絵です。サリュソフォンもでかい。演奏しているジェラルド・オーシタの身長ほどもあります。

 ちなみにこのオーシタさん、日系人だけあって、山下洋輔や大駱駝艦とも共演されています。変わった木管楽器を使うことにかけてはミッチェルさんとタメを張る人で、尺八なんかもモノにされています。そこで意気投合したのでしょう、彼らはスペースというユニットを組んで活動をともにしたこともあります。

 現代音楽っぽいと思ったのは、参加ミュージシャンが現代音楽畑の人が多いのもさることながら、即興部分も残されてはいても基本的にあらかじめ作曲された楽曲になっているからです。ジャズと現代音楽を峻別してもしょうがないのですがね。

 ミッチェルさん自身が解説を書いています。突き詰めると、そこにはどういう楽器のために作曲をしたのかということしか書いてありません。サウンドを聴いていますと、何かを主張をするのではなく、徹底して各楽器の音色を聴かせるように設計しているように思えます。純粋な音楽だと言えます。

 聴いたこともなかった楽器の聴いたことのない音色を堪能できる不思議なアルバムです。

Four Compositions / Roscoe Mitchell (1987 Lovely Music)

見当たりませんでしたので、近い作品を。