$あれも聴きたいこれも聴きたい 私はビートルズをリアル・タイムで経験したわけではありません。洋楽に目覚めた中学時代にはすでにビートルズは解散していました。映画も音楽も全作品群は目の前にあり、教科書的にスーパースターとしての評価が確立していました。

 リアル・タイム世代の方々は、「ビートルズ旋風と言うけれども、同時代にビートルズを聴いていたのはクラスで2,3人だった」とおっしゃいます。しかし、われわれポスト・ビートルズ世代の中学生はほぼ皆が聴いていました。そもそも洋楽も今よりポピュラーでしたしね。

 そんな私の中学時代に、ビートルズのアルバムで一番人気があったのは、この作品だったのではないかと思います。肩を並べる「リボルバー」とは鼻差でこっち。ただし、赤、青とその前の「オールディーズ」などのベスト盤は除いて考えています。

 勢いに溢れたロックン・ロールな初期と、複雑でプログレッシブな後期の間に挟まれて、折衷主義的なたたずまいが歌謡曲で育った世代には無理なく受け入れられたのではないかと推察いたします。もちろん日本だけではなくて世界的にも評価は高いですが。

 かくいう私もこの作品が一番好きかもしれません。今でもビートルズを聴きたいなと思い立った時に手が伸びるのはこのアルバムです。

 この作品は1965年10月から11月にかけて録音され、12月には発売されるという猛スピードで制作されています。ツアーは前代未聞の成功を収めましたし、ショービズ的には絶頂を極めていたことがほの見えるスケジュール感です。

 こんなスケジュールにも係わらず、勲章をもらうほど社会的にも無視できない存在になっていた彼らが自由になれるのはスタジオの中だけということで、作品は前作で芽生えたアーティスト路線が本格化し、音楽的に大飛躍を遂げることになりました。

 曲数は律儀に全14曲、今回はすべてオリジナルです。「ミッシェル」や「ガール」、「イン・マイ・ライフ」に「ノルウェーの森」などの有名曲ばかり。まだ全曲短いながらも、心持収録時間が伸びてきました。

 全曲、綺麗なメロディー・ラインを持っているのに加えて、どこかしら実験的な要素が必ず入っているところが先の評価の根拠です。たとえば、ジョージのシタール、ハモンド・オルガン風ピアノ、妙なコード進行などを指しているのですが、面白いのは必ずしもその実験を極めようという姿勢がないことです。

 アイデアを思いついたら無造作にポンと放り込んであります。それが故にビートルズを崇める人は、のちのロックのあらゆる可能性の萌芽がビートルズにあると言うのでしょう。若い四人の溢れるアイデアが種を蒔いたということです。

 どの曲が一番好きかと問われると困ります。泣ける歌詞の「イン・マイ・ライフ」と、驚異のベースの「ミッシェル」でしょうか。後者でのポールのベース・プレイは本当に凄いと思います。並ぶもののないプレイです。

Rubber Soul / The Beatles (1965 Parlophone)