$あれも聴きたいこれも聴きたい
 「我こそつまるところ己なり」。素晴らしい邦題です。かつてフランク・ザッパといえばこの人、TVプロデューサーの八木康夫さんがつけられた邦題で、私などにはとても愛着があります。今では様変わりしていますが、かつてザッパ先生を語るのは超マニアだけだったんです。

 現在発売されている日本盤の邦題は原題通りの「「ユー・アー・ホワット・ユー・イズ」とされています。この英文のニュアンスは極めて分かりにくいです。かつて何人かネイティブのイギリス人やアメリカ人に聞いたことがあるのですが、皆さん言うことが違いました。

 その判然としない原題の心を八木さんの邦題が見事にとらえていると思うんです。意味は明らかなので後は心の問題、その心をうまくとらえていると思います。この邦題を逆に英語ネイティブの方に説明することは難しいでしょうから、正解かどうかは結局分かりませんが。

 本作は、名作「ジョーのガレージ」に引き続いて、先生の顔のどアップがジャケットとなった、これまた歴史に残る名作です。それほど売れませんでしたけれども、先生の作品の中でも人気が高い作品の一つだと言ってよいでしょう。これまたLP2枚組の大作です。

 この作品でのザッパ先生はいつにも増して饒舌です。一聴して明らかなとおり、ボーカルが分厚く処理されていて、徹底的な歌物になっています。お約束のギター・ソロが目立つのはわずかに二曲、「不吉な靴下」と「もし彼女がそうしていたら」くらいのものです。

 時代はカーター政権からレーガン政権に代わり、ザッパ先生はそのレーガン大統領のそっくりさんを表題曲のプロモーション・ビデオで処刑してしまいます。歌詞の検閲とも戦いを深めていく頃ですから、言いたいことが山ほどあったということでしょう。

 二枚組全20曲、唯一のインスト「不吉な靴下」を除く19曲にわたり、言葉が詰め込まれています。「ジョーのガレージ」のような物語になっているわけではありませんが、曲同士の歌詞は緩やかにつながっており、全編を一気に聴かせてしまう仕掛けになっています。

 本作品もツアー音源を使っているのかと思っていましたが、こちらは作品作りのためにスタジオでセッションが行われました。サウンドは「ティンゼル・タウンの暴動」に近いですが、こちらの方が音圧も高く、ボーカルが際立っていますし、何よりもかっちりまとまっています。

 参加ミュージシャンの中で目を引くのは、先生の子ども二人、当時7歳くらいのアーメット君と14歳くらいだったムーンちゃんです。特にシングル・カットもされた「ドラフテッド・アゲイン」で可愛い声を聴かせてくれます。反戦の歌に子どもを使うのは効果的ですね。

 表題曲は白人になりたがる黒人を揶揄した曲で、ぱっつんぱっつんのギターが素敵なザッパさんを代表する名曲です。MVまで制作する気合の入りようでしたが、先に申し上げた理由であまりオンエアされず、ヒットには結びつきませんでした。それもまた勲章です。

 最後に付言しておきますと、ごく初期には本作品は「ジョーのガレージ」の続編とする構想があったらしいのですが、ドラムのヴィニー・カリウタが辞めてしまったことも一因となってなかったことになりました。その名残りが一部海賊盤にあるそうです。名作ならではの逸話です。

You Are What You Is / Frank Zappa (1981 Barking Pumpkin) #034

*2013年6月24日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Teen-age Wind
02. Harder Than Your Husband
03. Doreen
04. Goblin Girl
05. Theme From The 3rd Movement Of Sinister Footwear
06. Society Pages
07. I'm A Beautiful Guy
08. Beauty Knows No Pain
09. Charlie's Enormous Mouth
10. Any Downers?
11. Conehead
12. You Are What You Is
13. Mudd Club
14. The Meek Shall Inherit Nothing
15. Dumb All Over
16. Heavenly Bank Account
17. Suicide Chump
18. Jumbo Go Away
19. If Only She Woulda
20. Drafted Again

Personnel:
Frank Zappa : lead guitar, vocals
Ike Willis : rhythm guitar, vocals
Ray White : rhythm guitar, vocals
Bob Harris : boy soprano, trumpet
Steve Vai : strat abuse
Tommy Mars : keyboards
Arthur Barrow : bass
Ed Mann : percussion
David Ocker : clarinet, bass clarinet
Motorhead Sherwood : tenor sax
Denny Walley : slide guitar
David Logeman : drums
Craig "Twister" Stewart : harmonica
Jimmy Carl Black, Motorhead Sherwood, Ahmet, Moon, Denny Walley : guest vocalists