$あれも聴きたいこれも聴きたい イギリスのプログレにもいろいろな流派があります。このヴァン・ダー・グラフ・ジェネレーターはカリスマ・レーベル所属、ジェネシス系です。

 彼らは何回も解散している人たちで、なんやかんやありながらも現在なお活動中です。中心人物ピーター・ハミルはソロ作品も何枚もありますし、いろいろと複雑な経歴をたどっています。プログレのバンドにはありがちですね。

 この作品はそんな彼らの初期の傑作です。全3曲、A面に2曲、B面は一大組曲になっています。もう典型的なプログレです。プログレと聞いて思い浮かべる要素の全てを持っていると言っても過言ではありません。

 当初、メンバーは二枚組にすることを企画します。もう一枚は、ハミル以外のメンバーのソロ作品を片面に、過去作品をスタジオ・ライブで再録したものを片面にする予定でした。しかし、これはあえなくレコード会社に拒否されます。まあ、そりゃそうでしょう。

 さらにプログレ度が増す情報があります。この頃の彼らは英国では大した人気もなく、この作品もチャート入りすることはありませんでした。しかし、何とイタリアでは大人気を博して、チャートを制したというのです。プログレの聖地イタリアで認められたわけです。

 それもむべなるかな。サウンドは実にイタリアのプログレっぽいです。こりゃあ売れるわと思います。複雑な構成の楽曲を、キーボードやサックスが活躍するとても端正な演奏で聴かせます。それに、何といってもハミルさんのシリアスなボーカル。思わず居住まいを正してしまいます。

 彼らはこの作品の後、しばらくして2回目の解散をします。ツアーに明け暮れて余裕がなくなったところに、プロモーターやら何やらに搾取されていることに気がつき、バンドは最悪の精神状態に陥っていったようです。

 しかし、ストーンズならともかく、こんなバンドにツアーさせますかね。もちろんツアーも少しは必要でしょうけれども、この曲調なんですから、ほっておいて曲作りに励んでもらった方がよほどいい作品が生まれそうですよ。当時はまだまだアーティストの人権が確立していなかった時代でしょう。

 私は大たいボーナス・トラックなるものが嫌いなのですが、これはなかなか面白いです。異彩を放つのは、オリジナル米国盤には入っていた「テーマ・ワン」です。BBCのラジオ1のテーマ曲であのジョージ・マーチンが作ったインストものです。勇壮でキャッチーなテーマ曲で、私はとても好きなんですが、これをオリジナルに入れられたらたまらないでしょう。かわいそうです。

 面白いのは2枚組構想に入っていた各自のソロ作品です。どれもかなり実験的な作品です。完成には至っていないようですので、完成していたらどうなっていたか想像するのも楽しいです。ドラムの逆回しだとか、楽しげでポップなサックスだとか、変態オルガンとかいい感じです。

 ツアー漬けにしたりせずに、こういう曲を勝手に作らせておけばよかったのに、と返す返すも残念です。 

Pawn Hearts / Van Der Graaf Generator (1971 Charisma)