$あれも聴きたいこれも聴きたい 果たしてエビは溺れるのかと思いましたが、香港で食べたドランクン・シュリンプは確かに酒に溺れたエビでしたから、おかしくありません。ちなみに、その時はエビが鍋から飛び出してきました。検死報告書も必要ですね。

 今日のバンドは関西で10年以上活動する謎の集団です。ご紹介するビデオをご覧いただくと分かる通り、演奏しているのはエビです。エビの集団がわさわさ演奏しているんです。集団入りするにはエビ人間に改造される必要があるということです。

 リーダーは溺れたエビ・総帥という人です。謎に包まれた怪人です。プロデュースをしているのは山本‐慶という方で、この二人のほかは不定集団です。番号が振られていて、アルバムのブックレットに記載されたメンバーの中で一番大きい番号は041号ですから、40人以上がこれまで係わったことになります。昔ご紹介したパンゴのような感じです。

 山本監督のインタビューを読むと、このバンドはもともとライブハウスのブッキングの穴を埋めるために急ごしらえで始めたバンドで、「前から興味があった被り物のバンドをやろうと思ったのがキッカケ」で、その時、「何を被ろうか考えている時に、エビと目が合って閃いたんです」ということです。一回限りのはずが人気が出たので、気が付くと10年を超えていたという幸せな人たちです。

 サウンドは基本的にインストゥルメンタルで、パーカッションを多用したヘビーな楽曲が中心です。不思議なサウンドです。どんどこ音が鳴ってはいますが、ファンキーとは言いがたいです。いつの時代の作品なのかも分かりにくいです。どこか超然としたところがあるんです。

 最初に思い出したのは、「怪奇大作戦」とか「スパイ大作戦」、あるいは怪獣映画のサントラでした。これは山本監督のインタビューでも述べられていて、ああやっぱりそうだったんだと納得しました。確かに「劇盤的要素」が強いです。サントラ特有の音楽界から超然とした雰囲気です。

 それから、膝を打ったのは「海の中のことしか音楽にしていない」という類の言説です。そうです、そうです。妙に現世感が乏しいです。ダンス風味は全くありませんし、赤い血の匂いがしません。エビの血は青いんです。

 彼らはパフォーマンス集団であると自己規定しています。そう言うだけあって、パフォーマンスの映像は凄いです。普通の意味でのダンス風味はありませんが、深海でエビがわさわさしている様は見事なものです。ぜひステージを見てみたいと思います。

 このアルバムは彼らのファースト・アルバムのようですが、収録時間を考えるとミニ・アルバムですね。演奏力も高いですし、曲の風味も余人をもって代えがたいですから、ぜひフル・アルバムを出してほしいものです。DVDでも大歓迎です。

 こんなバンドが10年以上も人気を博しているとは、関西インディーズ・シーンの奥深さを感じます。いいですねえ。

アノマロカリス / 溺れたエビの検死報告書 (2013 ギューンカセット)