$あれも聴きたいこれも聴きたい 小さい写真では分かりにくいと思いますが、この写真の真ん中で踊っているのはアフリカの人です。地下鉄の駅の構内と思われる近未来的なセッティングで裸の女性が踊っている。今回のアルバムのコンセプトを過不足なく表しています。

 メビウスさんの今回のテーマはアフリカです。前々作がレゲエでしたから、それほど不思議な選択ではありません。今回はへろへろではなくて、ちゃんと驚異のドラマー、グルグルのマニ・ノイマイヤーとのセッションになっています。本格的なアフロです。

 クラウト・ロックにはいろいろなグループがありますが、軽いか重いか、電子か肉体かという区分けにしたがって分類すると、軽い電子派の筆頭にクラスターが来ます。そして重い肉体派にはカン、アモン・デュール、グルグルが位置づけられます。まあグルグルを重いと言ってしまうのは何ですが、呪術的と言い換えましょう。

 ちょうど対偶にある人たちですが、クラスターのアルバムにはカンのホルガー・シューカイが参加していましたし、マニもハルモニアのアルバムにゲスト参加していましたから、みんな仲良しだったんでしょうね。今回は、テーマが先に決まっていたのか、マニさんとのコラボが先に決まっていたのかどちらでしょうね。

 サウンドは、マニさんの正確で豪快な反復ドラムのまわりにメビウスさんの奇妙な電子音がまとわりつくというものです。Cのクラスターとは全然雰囲気が違いますが、Kのクラスターには幾分近いようにも思います。メビウスさんの懐の深さを感じます。

 ノイ!のクラウス・ディンガーさんのようなハッピー・ビートではなく、呪術的な感じすら漂う土俗的なドラミングです。クラウスさんではなくマニさんと組んだところにメビウスさんの意図を感じます。

 アルバムは全6曲で、うち1曲「リコール」にはスーダンの歌手が参加しています。これもシャーマンな声で、見事に曲にマッチしています。これは本格的なアフロを目指しているんだなと本気を感じさせます。

 プリミティブなビートに電子音ですから、今のクラブ系の音楽と比べても、全く違和感がありません。むしろ、こちらのハイセンスなサウンドの方が新しいとさえ感じます。昔はそれほどには思わなかったことを考えると、時代の先を行っていたんだなあとしみじみ感じます。

 当時、ニュー・ウェイブ界ではブルンジのドラムが流行っていました。お客さん的にドラムを引っ張ってくるのではなくて、こうして人力でたたき出すところが素敵です。オーガニックな響きは素晴らしいです。

 若い方にこそ聴いてほしい名盤です。

Zero Set / Moebius-Plank-Neumeier (1982 Sky)