$あれも聴きたいこれも聴きたい
 ライナーノーツで野田努氏はこのジャケットのミニマルなデザインを絶賛されていますけれども、私は今一つ好きになれません。蛍光色自体は嫌いではありませんが、この黄緑色はどうにもいただけません。とはいえ、「大胆かつフレッシュである」ことには賛同します。

 ディーター・メビウスとハンス・ヨアキム・ローデリウスの二人によるクラスターのスタジオ・アルバムは本作品「クリオズム」で一区切りがつけられました。すでにお互いが別々に活発な活動をしていましたから来るべきものが来たという感じでした。

 そんな節目の作品ですけれども、Kのクラスターは別として、本作品はどことなく軽い扱いを受けています。一つにはコニー・プランクやピーター・バウマンといった有名人とのコラボではないという事情があるように思います。本作品は二人だけでの制作です。

 しかし、サウンドは充実しています。なぜかウィーンのスタジオで制作されており、久しぶりのセルフ・プロデュース作品でもあります。最後ということも決めていたのかもしれませんが、ここへきてまたまた新境地に達したかのようなサウンドが並んでいます。

 実際、ここに収録された楽曲は、これまでとは質感が異なります。曲調にさほど変化があるわけではありませんけれども、音そのものが少し違います。どう違うかと申し上げると、単純に低音が目立つんです。くぐもったようなベース音が大活躍しています。

 あいかわらず音はスカスカで、前半はメビウス的なストレンジな曲、後半はローデリウス的な浪漫な曲と二人の特徴もよく出ています。これまでよりもさらに贅肉がそぎ落とされましたが、だからといってストイックな響きというわけではなく、ユーモラスな不条理が漂います。

 自分たちの音楽のありようについて、野田努氏が1996年に取材した際、メビウスは「Clusterが他のバンドと決定的に違っていた点は・・・目的意識を持たなかったことだ。目的もなく、メッセージもない、それがClusterだった」と語っています。

 この言葉には首肯するしかありません。本作品で聴かれるサウンドにも何の意味もありません。しかし、意味などなくても全く問題ありません。意味を求めるのならば本を読んだ方がよいわけで、音楽を聴くからにはそんなものを求めたってしょうがないと思います。

 しかし、人はどうしても意味を求めてしまいます。アーティストもリスナーも。そこにこうして徹底的に意味性をはく奪したクラスターがそそり立っています。まことに素晴らしい。強靭な意思というよりも仙人のような軽みを感じます。クラスターは最高です。

 最後の曲「岸辺」などが代表的です。波の音を模した静かな静かな作品は、そもそも音が小さくて耳を澄ます必要があります。標題音楽的ではありますが、あくまで身軽です。そこにはファースト・テイクがラスト・テイクであるというクラスターの軽やかさが横溢しています。

 いろいろなコラボレーションで個性豊かな人々をあるがままに受け入れてきた二人が最後に二人だけで作り上げた作品です。これまでの集大成を感じるとともに、まだまだ未来に向かってどこまでも広がる可能性を感じます。無垢な魂は永遠です。

Curiosum / Cluster (1981 Sky)

*2013年5月8日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Oh Odessa
02. Proantipro
03. Seltsame Gegend 奇妙な場所で
04. Helle Melange 澄みきった混色
05. Tristan in der Bar 酒場のトリスタン
06. Charlic
07. Ufer 岸辺

Personnel:
Dieter Moebius
Hans-Joachim Roedelius