![$あれも聴きたいこれも聴きたい](https://stat.ameba.jp/user_images/20130506/17/memeren3/04/bf/j/t02000198_0200019812528284895.jpg?caw=800)
クラスターとしての活動と並行して、ローデリウスさんもメビウスさんもソロで活動を始めました。クラウト・ロックの離合集散は小気味いいまでの自由度が持ち味です。メビウスさんの最初の作品は、クラスターとともに音楽を作ってきたコニー・プランクとのデュオ作品です。
1979年9月にケルンにあるコニーズ・スタジオで制作されました。カンの名物男ホルガー・シューカイがベースで三曲参加している他は、二人だけで仕上げられた作品です。
この作品のタイトルは、直訳すると「マリファナ・パスタ」という意味だそうですが、レゲエのラスタとドイツのクラウトが合体した言葉を冠した歯磨き粉という意味とした方がいいのではないでしょうか。だってレゲエですし。
これまでの彼らの作品からしてみると、なんでレゲエなのかと思うところです。しかし、この時代はパンク/ニュー・ウェイブ時代ですから、レゲエとその発展形のダブはジャマイカの熱い太陽とは違う文脈でも活躍していました。
そして、この時期、プランクさんはブライアン・イーノ先生とともにニュー・ウェイブ勢のエンジニアリングやプロデュースをひきうけています。ディーボやウルトラボックスです。ここらあたりでダブに影響を受けたイギリスのポスト・パンクとドイツのクラウト・ロックは完全にシンクロすることとなりました。
そんな背景からでしょう、ベースは相変わらずエレクトロニクス・サウンドなんですが、ここはレゲエです。レゲエもどきです。そこはかとなく、というより、あからさまなレゲエ。ところが、レゲエの熱さやダブのクールさはあまり感じられず、飄々としたユーモラスな佇まいが何とも言えない脱力を誘います。
もともとクラスターの二人の個性は結構際立って異なっていました。可愛らしいメロディーを多用する牧歌的なローデリウスさんに対して、メビウスさんは奇妙なエレクトロニクスを真骨頂とする遊び心満載の人でした。
ここでは、そんな彼の遊び心が存分に発揮されています。最初から最後まで、へろへろな楽器群とへんてこりんな電子音で曲が紡がれていきます。そこにレゲエもどきのリズムが合体してスパークする、そんな感じです。
もともと意味を持たないクラスターの音楽でしたが、メビウスさんは特にその傾向が強いと思います。精神主義的な側面は皆無です。そこが今のテクノ・サウンドとの親和性を生んでいるんでしょう。まさに先駆け的な意味合いも持っています。意味を持っちゃあいかんのですが。
ただ、一部に聴かれる電気的に処理したボーカルがサイケですし、ピアノなどはローデリウスさんに通じるところも垣間見られます。やっぱりコンビだったんだなあとも思いました。
まるでメビウスさんのソロ作品のような書き方をしてしまいました。プランクさんもメンバーにクレジットされているわけなので、彼の音響処理は裏方のそれではなくて、完全に主役となっています。たとえば、「ソーラー・プレクサス」などはプランクさんの独壇場ではないでしょうか。後の名作、プランク&シューカイのレ・バンピュレッツの「ビオムータンテン」によく似た雰囲気です。
とても明るくて気立てのよい不条理なアルバムです。のんびりと楽しめる嬉しい一枚です。
Rastakraut Pasta / Moebius & Plank (1980 Sky)