死神くんキャラでちょっとだけ有名な漫画家のえんどコイチのデビュー作は「遠足の日」という読み切りの短編でした。幼稚園に通う病気がちの女の子のお話です。死神くんも登場し、その子を訪ねて、「明日死ぬ運命だから、その前に三つだけ願いを叶えてやる」と告げます。

 女の子のお願いは、「捨て犬の飼い主をみつけてほしい」、「友達が楽しみにしている遠足の日を晴れにしてほしい」、最後は「自分が死んでもお父さんとお母さんが悲しまないようにしてほしい」というものでした。何と健気な。

 感動した死神くんは掟をやぶって、女の子を救い、自分も人間として生まれ変わるというとってもいいお話です。書いてしまうと身も蓋もないわけですが、この漫画、一応ギャグまんがなんです。過剰なドラマ性が排除されているところが逆に新鮮でした。

 関係ない話のようだと思われるでしょうが、もしもこの漫画を映画化するなら、その音楽にはこのローデリウスの作品が最もふさわしいとアルバムを初めて聴いた時から思い続けているんです。それほどこの作品はこの世のものとも思えない作品なんです。

 ローデリウスのソロ作品としてはこれが二作目になります。彼の作品の中では若干異色です。これだけが、フランスのエッグ・レーベルから発表されました。おかげで彼のソロとしては恐らく唯一ほぼリアルタイムで日本盤が発売されました。

 そして、これはクラウト・ロックでは最も有名なタンジェリン・ドリームのピーター・バウマンがプロデュースしています。彼はクラスター作品のプロデュースもしていますし、ローデリウスの数多いソロ作品でもこの作品を含め二作を手掛けています。

 全10曲の小品集はもはやメルヘンです。使われているピアノも電子音も見事にキラキラした可愛らしい音ですし、チェロが入ったり、子供の声がコラージュされていたりで、メロディーもリズムもとても可愛らしいです。少なめの音数が胸に染みる味わいを醸しています。

 日本で発売された時のタイトルは「美しい世界(愚者の庭)」でした。ジャケットはCD化に際して、へんちくりんになりましたが、もともとはいかにも好々爺としたローデリウスの露出オーバー気味のポートレート写真でした。そこも含めてとてもほのぼのとした超名作です。

 こういうメルヘンな音というのは、品良くまとめることがとても難しいと思います。優しさというものは大人のずるさと一緒に成長するものですから、優しい音を目指してしまうと、あざとくなります。自己憐憫に陥ってもよろしくないですし、やはり本人の気合いでしょう。

 ローデリウスの場合には、クラスターやハルモニアの時からそうですが、とにかく過剰な意味性を排除しているところに持ち味があります。「遠足の日」もギャグ漫画とすることで、過剰な感傷を避けています。どこか似通った持ち味なんです。

 まあ小難しいことは抜きにして、ここはそのまんまメルヘンとして楽しみたいものです。発売から数年たった頃だと思いますが、大阪のひらかたパークのTVコマーシャルにこの作品に収録されている「幸せの道」がBGMとして使われていました。全く正しいと思います。

(Edited on 2017/4/28)

Jardin Au Fou / Roedelius (1978 Egg)