$あれも聴きたいこれも聴きたい 若い人の間ではキューバの人気が高いようです。私の若い頃は冷戦時代でしたから、キューバすなわち革命で、最も遠い国の一つでした。時代は変わるものです。

 ところが、昔からキューバは音楽的にはとても豊かな国として、日本の片隅にまで名が轟いていました。東京キューバン・ボーイズなどの力も大きかったんでしょう。アフロ・キューバン・ジャズはラテンの一つの典型でした。

 時代が下ると、ライ・クーダーのブエナビスタ・ソーシャル・クラブの衝撃がありました。その豊潤なサウンドにはうならされたものでした。楽しげな老人たちの歌声は、革命以外の顔をしっかりと見せてくれたものです。

 ロベルト・フォンセカは、ジャケットにマッチョなヒップ・ホップ・タイプの写真を使っていますが、ブエナビスタ・ソーシャル・クラブにも参加していたアフロ・キューバン・ジャズのピアニストです。私などが半端に理解するキューバの全てを兼ね備えた人です。

 この作品は、ロベルトの通算7作目のアルバムです。タイトルの「ジョ」はスペイン語で「私」です。力強いタイトルです。自らの内面を見つめ倒した自信の表れでしょう。ジャケットだけではなく、ブックレットには彼の肉体美を存分に堪能できる写真が満載です。

 音楽的には、自分と向き合った結果出てきた答えはアフリカでした。ここでは、マリ出身のババ・シソコのパーカッションが大活躍しますし、ギニア、アルジェリア、セネガルとアフリカ中のミュージシャンが参加しています。見事なものです。アフリカと言ってもアフロ・ファンクだけではないことを思い知らされます。

 さらに赤字で書かれているのが、クラブ音楽の大物ジャイルス・ピーターソンの参加です。クラブ・ジャズ的でもあるということです。よく引き合いに出されるのが、マネジメントが同じということでエスペランサ、そしてロバート・グラスパーです。現代的で生きのいいジャズという意味ですね。

 帯の文句は「アフロ・キューバン宣言」です。ここにあるのはラテンではありますが、アフリカ、ヒップ・ホップ、クラブ・ジャズなどのミクスチャーです。そこがキューバン・ボーイズとは違うところです。ピアノという西洋音楽の象徴を使って、ここまでしなやかに音を紡いでいくのは並大抵の才能ではありません。

 ロベルトはリリカルな面も持ち合わせているピアニストです。そんなところもポイントが高いものと思われます。比較的端正なピアノ弾きですから、迫力たっぷりの演奏ではあるものの、安心して音に身を委ねることができます。いい作品です。

Yo / Roberto Fonseca (2013 Montuno)